別れと出会いの果てに辿り着いた、柔らかな強さ

デス・キャブ・フォー・キューティー『サンキュー・フォー・トゥデイ』
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ALBUM
デス・キャブ・フォー・キューティー サンキュー・フォー・トゥデイ

バンド創設以来のメンバーというだけでなく、ソングライティング面の中核であるベン・ギバードとともに、サウンド・プロデューサーとしての立場からデスキャブを走らせる両輪の片方を担ってきたクリス・ウォラは、前作『金継ぎ』の制作途中で脱退。つまり本作は、完全にクリスの関わっていない状態で作り上げた、初めてのアルバムということになる。代わって、近年のツアーでサポート・メンバーを務めていたデイヴ・デッパーとザック・レイが加入し、バンドは5人編成となった。

ご存知の通り、前々作『コーズ・アンド・キーズ』から前作『金継ぎ』までの間に、ベンは女優ズーイー・デシャネルとの離婚を経験した。割れてしまった陶磁器の破片を接着して直す日本の伝統技法を表題にしていることに象徴される通り、『金継ぎ』には当時の彼の傷心が反映されている。そして、ズーイー、クリスとの、ふたつの大きな離別を乗り越え、2016年には再婚も果たしたベンが、新たな仲間たちと完成させた最新アルバムには「今日にありがとう」というタイトルがつけられた。それだけでなんだか泣けてくるが、聴いているとホッとした気持ちになれる。『金継ぎ』もいい作品だったが、どうしてもまだ気持ちが張り詰めてしまう雰囲気があった。

先行公開されたシングルの“ゴールド・ラッシュ”は、90年代以降、産業的に急成長を遂げ、目覚ましい開発が進んだシアトルの町=キャピトル・ヒルについて歌っている(※そういえば、2012年にリリースされたベンの初ソロ・アルバムでも、同地のスミス・タワーという古い建物への思い入れを綴った曲が収録されていた)。変わりゆく故郷の姿に切ない心情を抱きながら、もう元に戻すことはできない、これからも続く人生を前に進んでいかねばならないという現実を、ベンはゆっくり受け入れているのだろう。『サンキュー・フォー・トゥデイ』は、色々な意味でデス・キャブ・フォー・キューティーの新章を記した作品となったようだ。これまでに生み出してきたのと変わらぬ、淡く美しいメロディとサウンドに、人生の後半へ突入した男の気持ちがどのように込められていくのか、これからの彼らに対する期待がぐっと膨らんできた。1曲目“アイ・ドリームト・ウィ・スポーク・アゲイン”の中盤以降からバックで鳴り響くドラムの音も、深いエコーがかけられて耳あたり柔らかだが、確かな力強さを感じさせる。

プロデュースは前作に続いてリッチ・コスティ。チャーチズのローレン・メイベリーが、“ノーザン・ライツ”でゲスト参加している。(鈴木喜之)



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デス・キャブ・フォー・キューティー『サンキュー・フォー・トゥデイ』のディスク・レビューは現在発売中の「ロッキング・オン」10月号に掲載中です。
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デス・キャブ・フォー・キューティー サンキュー・フォー・トゥデイ - 『rockin'on』2018年10月号『rockin'on』2018年10月号
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