かつて、初代シンガーのレイン・ステイリーがドラッグ問題を抱え、活動がままならぬ状態に陥った時、他のメンバーは彼を解雇するどころか、じっと回復を待ち続けていたことは御承知の通りだ。ついにレインが帰らぬ人となってしまい、その4年後にバンドは新たなシンガーを迎えて再出発。直後に出演したウドー・ミュージック・フェスティバルで13年ぶりに観た彼らは、にこやかにヘヴィな音を鳴らしており、「今後は思う存分に楽しんで続けてくれ」と感じたものだ。ただ、その後発表されたアルバム2作は、かなり良かったけれど、それほど繰り返し聴くことはなかった。
そして5年ぶりとなる新作。プロデューサーは変わらずニック・ラスクリネクスだが、録音場所はLAからシアトルに移り、スタジオXで行なわれている。ここは以前バッド・アニマルズという名称で、サウンドガーデンなどが傑作を生み出した、シアトルのロック史に大きな貢献を果たしたレコーディング・スタジオだ。アリス・イン・チェインズも、レインが参加した最後のアルバムを同所にて制作している。ただ、年月は流れたとはいえ、バンドの将来に暗雲が垂れ込め始めた時期を過ごした場所へ戻るのは、メンバーに強いフラッシュバックを引き起こしたことだろう。なぜ地元に戻る気持ちになったのか、まだ詳細は不明だが、タイトルに冠されたレーニア山はシアトルの象徴であり、「俺たちが育った場所、俺たち自身、今まで経験してきた栄光や悲劇、生きてきた人生のすべてに敬意を表す作品さ」とジェリー・カントレルは発言している。
そんな本作は、かつて同じ場所で作ったアルバムと、どことなく通じる感触がある。実はそのサードがいちばん好きだった人間なので、今度のは何回も聴くことになりそうだ。(鈴木喜之)
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