これはぜひヴァイナルで聴きたい

スパイラル・デラックス『ヴードゥー・マジック』
発売中
ALBUM
スパイラル・デラックス ヴードゥー・マジック

スパイラル・デラックスは、デトロイト・テクノのオリジネイターの1人であるジェフ・ミルズが結成したジャズ・ファンク〜ソウル・エレクトロの4人組だ。メンバーはバッファロー・ドーターコーネリアス・グループの大野由美子(Moog)、ジャズ・トランペッター日野皓正の息子・日野“JINO”賢二(B)、ジェフとアンダーグラウンド・レジスタンスで同僚だったジェラルド・ミッチェル(Key)。ジェフはドラム・マシーン及び生ドラムを担当している。2015年に結成され、これまで2枚のライブ12インチ・シングルをリリースしているが、これがスタジオ録音によるファースト・アルバムとなる。CD/配信リリースもこれが初だ。

ジェフはもともと、オーケストラと合体してテクノとクラシックの融合を図ったり、アフロビートの達人ドラマー、トニー・アレンと共演したり、テクノの枠を大きく拡張しエレクトロニック・ミュージックの再定義を迫るような意欲的な試みを次々に行ってきた。このバンドはジェフにとって長年構想してきたものだそうで、DJになる前はジャズ・ドラマーとして活動していたというキャリアを踏まえてのものだ。つまりテクノの定義の拡張というよりも、彼にとっては一種の原点回帰で、その後のキャリアで得たスキルやノウハウで自分の原点となった音楽を再構築するというニュアンスもあるのかもしれない。

そのサウンドは非常に良質かつオーソドックスなジャズ・ファンク〜ソウル〜エレクトロニカ。演奏のポイントを挙げれば、ドラム・マシーンやシンセなどエレクトロニクスを使っていると言ってもMIDI同期は一切行われていない。にも拘らずそれぞれの卓抜したスキルと豊富な経験と勘と反射神経で、敏感に呼応しあいながらダイナミックでソリッドでフィジカルなグルーヴが展開していくのが聴き所だ。生バンドの中に交じってのジェフの魔術師のようなリズム・マシーン使いは圧巻。ジェラルドのピアノ・プレイも実に素晴らしい。70年代のジャズ・フュージョンを基調にソウル〜R&Bやディープ・ハウス、ファンクなどがこれ見よがしではなく自然に融合している。女性ボーカルをフィーチャ―した歌ものも披露しているが、往年のアシッド・ハウスを思わせるムードもたまらない。録音も非常に良い。

DJジェフ・ミルズのミニマルでストイックなスタイルに親しんでいる聴き手からすれば、この肉体性が強くナチュラルで人間的な温かみをもった世界は面食らうかもしれないが、その底に流れる音楽の核をつかみ取る精神性は変わらない。(小野島大)



『ヴードゥー・マジック』の詳細はSPIRAL DELUXE特設サイト 日本語版オフィシャル・インタビューページよりご確認ください。

スパイラル・デラックス『ヴードゥー・マジック』のディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』11月号に掲載中です。
ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。

スパイラル・デラックス ヴードゥー・マジック - 『rockin'on』2018年11月号『rockin'on』2018年11月号
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