オレたちは傍観者じゃない

ザ・プロディジー『ノー・ツーリスツ』
発売中
ALBUM
ザ・プロディジー ノー・ツーリスツ

ザ・プロディジーの3年8ヶ月ぶりの7作目である。ここのところ7年、5年、6年と発売間隔が空くのが普通だったから、彼らとしては異例にタームが短い。それだけ彼らの表現欲求が高まった結果だとも言える。

アルバム・タイトル「観光客じゃない」とは、まさに彼らの姿勢そのものと言えるだろう。傍観者でも、ただの物見遊山の通りすがりでもない。あらかじめ決まった道を歩くのではなく、自分で決める。あくまでも当事者として、リスクを恐れず、挑戦を厭わず、そのつどの現場で全エネルギーを絞り尽くす。

ザ・プロディジーの活動とは、今も昔も、音楽のパワーやエネルギーを、初期衝動のまま減衰させず磨耗もさせず、どこまで拡大・増強できるかという勝負にほかならない。年齢を重ねキャリアを積んでも、絶対にその表現は「成熟」や「円熟」や「枯れた味わい」なんてところにはいかない。いわば、いくつになっても自らの生命曲線に逆らうように「100mを何秒で走り抜けられるか」という勝負をしている。そういうギリギリの闘いをくぐり抜けて得られるのは、鮮烈なまでの生の実感だ。そうした彼らの姿勢がこのアルバム・タイトルに見事に凝縮しているのである。

そして肝心のアルバムの中身はといえば、120%客の期待に応えきった、これぞザ・プロディジーといわんばかりの禍々しく喧噪でエネルギッシュ、ど派手で強靱で、強い刺激とカタルシスに満ちたダンス・ロックを炸裂させている。これはザ・プロディジーにしかできない世界だ。米ニュー・ジャージーのミクスチャー・バンドHo99o9、UKレゲエのブラザー・カルチャーなど様々なゲストを招きながらも揺るぎのないザ・プロディジー節。「代わり映えがしない」と感じる向きもあろうが、新陳代謝の激しいダンス・ミュージックの世界では、「代わり映えしないように聞こえる」ために、常にその音を時代にあわせリニューアルし続けなければならない。

「大事なのは、新鮮さを感じさせながら、同時におれたちの歴史とサウンドをレトロにならないよう描くことだった。レトロなんて冗談じゃない。そんなものに未来はない」とはリアム・ハウレットの言葉だが、ファンの欲望に100%応えザ・プロディジーらしさを死守しながらも、そのつどの状況を鑑みて自分たちの表現を更新しプログレスしてきた。本作で言えばベース・ミュージック以降の分厚いローの音響感覚、トラップ、EDM以降のビートやテクスチャーを適宜取り入れながら、ザ・プロディジーはこうして生き残ってきたのだ。これはその最新の成果である。(小野島大)



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ザ・プロディジー『ノー・ツーリスツ』のディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』12月号に掲載中です。
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ザ・プロディジー ノー・ツーリスツ - 『rockin'on』2018年12月号『rockin'on』2018年12月号
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