カインドネスの3作目が実に素晴らしい極上の出来だ。ソングライティング、アレンジ、サウンド・プロダクション、ボーカル、ミックスまで含めて、この人の表現レベルが一段も二段も上にあがったことが実感できる。今もっとも洗練されたUKエレクトロニックR&Bである。
前作が5年前だからかなり間が空いた感じだが、その間にソランジュやブラッド・オレンジ、ロビン等のプロデュースに参加したり、映像作家としてグリズリー・ベア等のMVを手がけるなど多様な活動を展開していて、そうした活動も本作にフィードバックされているはず。むしろ以前よりも知名度やステイタスを上げての通算3作目だ。
17年の1stが素晴らしかったケレラが共同プロデュース、セイナボ・セイをフィーチュアした極上のファンキー・トラックや、盟友ロビンをフィーチャーしたディープ・ハウス・トラック、ジャズミン・サリヴァンをフィーチャーしたディープ・ソウル(サンファも作曲、コーラス等で参加)、トッド・ラングレンをサンプリングした曲など、多様なアプローチの13曲。ゲスト・ボーカルが半分以上の曲で参加しているのも本作の特徴で、結果アルバムの世界観が広がりカラフルになった。
また弦楽器が全編にわたってフィーチャーされ、優雅にして官能的なサウンドのビロードのような手触りは他に代えがたい魅力を放っている。
また本作は、この6月に事故死したカシアスのフィリップ・ゼダールが久々にミックスを手がけていて、彼の追悼アルバムという意味合いもありそうだ。おそらく彼の最後の仕事だろう。フィリップの作り出す繊細で温かみのある空間は、カインドネスの音楽を優しく包んでいる。
間違いなく彼の最高傑作。この先何度も聴き返すことになるだろう名盤の誕生だ。 (小野島大)
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