これはクイーンの歴史というよりもフレディの人生の記録だ。つまり、映画『ボヘミアン・ラプソディ』で描かれた物語を実証するかのような内容だといえる。そもそもは2012年に発表されていた映像作品の新装廉価版であり、その時期を踏まえれば映画製作の上でもこの素材がフレディの人物像を描くうえで貴重な物証として役立っていたのではないかと察せられる。
また、本作の原題が『ザ・グレート・プリテンダー』である事実も非常に示唆的だ。これは、フレディが1987年にカバーしたザ・プラターズのヒット曲のタイトルだが、なにしろ彼自身の人物像をリアルに浮き彫りにしたこの作品に「偉大なるなりすまし」という言葉が冠せられているのだから。ザンジバル生まれのファルーク・バルサラとしての過去と決別し、パフォーマーとしての新たな人生を歩み始めた彼は、その時点から理想追求のために自分自身を偽り始めたともいえるのだ。
本作では、フレディがロッド・スチュワートやマイケル・ジャクソンとコラボレイトした楽曲の未発表音源などにも触れることができるし、晩年の彼の日常において重要な役割を果たしたジム・ハットンや、モンセラート・カバリェをはじめとする人たちの生々しく興味深い発言も豊富にちりばめられている。ことにカバリェとの出会いやアルバム制作に伴う物語は、それだけで『ボヘミアン・ラプソディ』の続編になり得るのではないかと思えるほど劇的で、感情を揺さぶるものがある。クイーンの歴史やメンバー個々の人物像、音楽的変遷やその背景といったものに対する世の興味が高まりを見せているなか、米国のエミー賞、欧州のローズ・ドール賞にも輝いているこのドキュメンタリー作品も改めてチェックしておきたいところだ。(増田勇一)
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