2020年、それはザ・ストロークス再生の年!

ザ・ストロークス『ザ・ニュー・アブノーマル』
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ALBUM
ザ・ストロークス ザ・ニュー・アブノーマル

ザ・ストロークスは昨年の大晦日、ブルックリンで年越しライブを行った。「2020年代が始まる。2010年代は休んでいた俺たちだけど、こうして戻ってきたんだ」とジュリアンはステージで語ったというが、7年ぶりの新作となる本アルバムは、まさにカムバックを果たした彼らの新時代の幕開けを告げる傑作だ。念の為に補足すると、彼らは10年代にも『アングルズ』(11)、『カムダウン・マシン』(13)、『フューチャー・プレゼント・パスト EP』(16)をリリースしていて、完全に沈黙していたわけではない。でも、「休んでいた」と言うジュリアンの気持ちはよく分かる。バンド崩壊の危機を『アングルズ』で何とか回避した彼らが、バンドの「維持」に努めたのが10年代だったからだ。でも、彼らは戻ってくる決意をした。維持や延命ではなく、必然と必要に駆られて戻ってきたのだ。

冒頭の“ジ・アダルツ・アー・トーキング”、5つの歯車が1ミリの隙間もなく噛み合い、滑らかに回転し始めるかのようなストロークスのマジカルなアンサンブルの復活に、早くも胸が高鳴る。ぶっきらぼうなジュリアンの歌声に秘められたナイーブな甘さに寄り添い、引き立てていくリード・ギター、必要絶対条件だけでタイトに絞り込みながらも、なぜかスカスカの余白も担保できてしまうリズム隊、そして各パートの交差点で華麗にタクトを振るかのように交通整理していくリズム・ギター――彼らはテクニカルに複雑なことは一切やっていないのに、一度でもバラバラにしたら二度と組み立て直せないだろう、このアンサンブルこそがストロークスがファブ・ファイブである所以だ。そんなファブ・ファイブの魅力は、メロディの緩急がついた“バッド・デシジョンズ”でさらに花開いている。二つのリフが時に即興的にカウンターを成し、吸い付くように重なり、かと思えばクリーン・トーンとノイズで分離しながら無数の音色をパレットに広げていく“ホワイ・アー・サンデイズ・ソー・ディプレッシング”を筆頭に、対極の個性を持ったニックとアルのツイン・ギターも、かつての最高のコンビネーションが見事に復活している。

先行公開された“アット・ザ・ドア”はジュリアンのザ・ヴォイズや、さらにはジュリアンとダフト・パンクの“インスタント・クラッシュ”あたりを彷彿とさせるストロークスらしからぬフューチャリスティックなシンセ・チューンだったが、アルバムを通して聴くと驚くほどしっくり馴染んでいるのも発見だった。それは、乾いた弦の音をダイレクトに響かせていたかつての彼らのガレージ・サウンドにはなかった奥行き、包容力のようなものが本作には新たに生じているからかもしれない。また、カシオトーンのようなチープなシンセが愛嬌たっぷりの“ブルックリン・ブリッジ・トゥ・コーラス”がザ・カーズを彷彿させずにはいられないように、80sニュー・ウェイブやパワー・ポップからのリファレンスは本作でも健在。つまり本作は、『イズ・ディス・イット』の究極のミニマリズムとしてのガレージ・サウンドと、『ルーム・オン・ファイア』の捻くれフェティッシュなポップ・センス、ストロークスの最上の二つの個性が贅沢に盛り込まれたアルバムでもあるのだ。そこに単なるセルフ回顧ではない俯瞰の視点を与えたのはプロデューサーのリック・ルービンの功績だろう。“エターナル・サマー”は彼らのヒーローであるサイケデリック・ファーズのバトラー兄弟とのコラボ曲。ジュリアンの合いの手も楽しげな踊れるサイケデリック・ファンク・チューンに仕上がっているが、歌詞に目をやれば地球温暖化に警鐘を鳴らすシリアスなナンバーであることが分かる。この曲に限らず、本作の歌詞は総じてシリアスだ。時間切れの焦燥に追い立てられるように、「今、歌わなければならない」という切迫感が、彼方此方に満ちている。

そう、彼らの地元NYが誇るバスキアのペインティングを掲げ、「新非常態(New Abnormal)」にある世界を宣言した本作は、紛うことなきメッセージ・アルバムだ。例えば“バッド・デシジョンズ”の中で暗示される「1972年、モスクワ」とは、同年の米ニクソン大統領と旧ソ連のブレジネフ書記長との首脳会談を示唆したもので、それはロシア疑惑に揺れる現在の米大統領への痛烈なアイロニーになっているのは言うまでもない。彼らがこの2020年に戻ってきた必然のひとつに、今年が4年に一度の米大統領選の年であることも無関係ではないだろう。つまり彼らは自分たちの内にも外にも、カムバックの必然を感じ取っていたはずなのだ。“オード・トゥ・ザ・メッツ”は本作を締めくくるに相応しい壮大なバラッドで、ジュリアンは最後の力を絞り絞るように歌う。《約束するよ、俺は真実を見出す》んだと。 (粉川しの)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』5月号に掲載中です。
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ザ・ストロークス ザ・ニュー・アブノーマル - 『rockin'on』2020年5月号『rockin'on』2020年5月号
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