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    大人の音はほんのり苦い

    ファイヴ・セカンズ・オブ・サマー『カーム ~デラックス・エディション~』
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    ALBUM
    ファイヴ・セカンズ・オブ・サマー カーム ~デラックス・エディション~

    4人のメンバーがハーモニーを紡ぐ荘厳なオープニングを聴くだけで、また一歩大人になったなと見当がつくんじゃないかと思う。“レッド・デザート”と題されたその曲で、故郷オーストラリアに敬意を表して幕を開ける、ファイヴ・セカンズ・オブ・サマーの4枚目は、ますます自由奔放で好奇心旺盛なバンドの姿を映したアルバムだ。

    デビュー当初に鳴らしていたポップ・パンクの枠を脱し、前作に至って広義なポップ・ミュージックを土俵と見做して、実験を始めた彼ら。再びアンドリュー・ワットをメイン・プロデューサーに起用した今回も、モードは変わっていない。引き続き80年代の音楽にハマっているらしく、特に際立つのは、ゴス/インダストリアルの影響だ。“イージアー”のナイン・インチ・ネイルズ、“シン・ホワイト・ライズ”のザ・キュアー、“ロンリー・ハート”のデペッシュ・モード……。笑っちゃうほど元ネタが分かりやすくて、次々に未知の音楽を見つけ出しては、おいしいところ取りする屈託のなさは、微笑ましい限り。ほかにも、同じく80年代調のファンク・ポップあり、トラップあり、広がるばかりのパレットを、どこか苦みと陰りを帯びたトーンで、1本の流れに束ねている。

    そして、望郷の念、社会批評、成長の痛み、恋愛のより厄介な側面といった重めのテーマも、サウンドが含むダークネスと呼応し合って、より細やかなボーカル表現を引き出す結果となった。CSNYあたりをお手本にしたと思しき、冒頭でも触れた美しい4部ハーモニー然り、グッと華を増したルークの歌然り。そんな彼らを見ていて思い出すのはやはり、バンドがポップをプレイしていた80 年代だ。ポップであることとロックであることは共存し得ると、本作は最高の形で証明している。 (新谷洋子)



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    ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』5月号に掲載中です。
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    ファイヴ・セカンズ・オブ・サマー カーム ~デラックス・エディション~ - 『rockin'on』2020年5月号『rockin'on』2020年5月号
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