本作は、1997年に行なわれた『アースリング・ツアー』での演奏を世界各地の数公演分からまとめた音源集で、過去にファンサイト会員限定で発売されていたもの。4月に出た『チェンジズナウボウイ』と同時期の録音ということになるが、内容はかなり違う。観衆がいるライブというのがまずひとつ、そして本編では代表曲も入っていたであろうセットから、あえて直近の作品『アウトサイド』と『アースリング』に集中した選曲をしていることだ。また、オリジナル・リリース時の10曲に加え、ザ・タオ・ジョーンズ・インデックス名義の限定シングルとして出していた“パラス・アテナ”(『ブラック・タイ・ホワイト・ノイズ』収録曲)と“V-2シュナイダー”も追加されている。後者は、先日亡くなったフローリアン・シュナイダーに捧げた曲であり、90年代後半の感覚で更新された本作のバージョンは、特別な意味で味わい深いものとなった。
“アイム・ディレンジュド”にドラムンベース色を濃くしたリアレンジを施したり、ここでもボウイが、果敢なサウンド刷新に努めている様子がうかがえる。時流に倣ってあれこれやってみましたという感触もなくはないが、マイク・ガーソンをフィーチャーした優秀なバック・バンドの力もあり、ライブならではの勢いも得て、没後の発掘音源という特性を超えたところで非常に興味深く聴けた。冒頭に置かれた2曲は、トレント・レズナーが絡んだものとして記憶されているので、ナイン・インチ・ネイルズのファンとしても、なんだか嬉しかったりする。
なお、本作は3回連続のスペシャル・ライブ・リリース・シリーズの第1弾であり、6月と7月にも90年代のレア音源が配信される予定だ。この後の2作も楽しみにしたい。 (鈴木喜之)
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