一段上のフェーズでポップが鳴っている
ヒゲダンの名バラードといえばいろいろあるが、映画『コンフィデンスマンJP プリンセス編』の主題歌として先行配信された“Laughter”は、メロディやサウンドの力強さ、歌詞のメッセージ性の大きさ、どこを取ってもそれまでの曲たちとは明らかに違うように感じた。もちろん『コンフィデンスマンJP』との長い蜜月がこの真っ当さを生んだともいえるだろう。今だからこそこのメッセージが輝くということはあるだろう。だがそれだけではないのではないかと、この『HELLO EP』を聴いて思った。シンセのリフやギターワークなど、聴けば聴くほど味わい深いアンサンブルを大振りのリズムとサビの明快さで一気に普遍化してしまう“HELLO”、ノスタルジーを振り切って未来へ向かうという思いが歌詞だけでなくレトロとモダンのハイブリッドなサウンドでも表現されている“パラボラ”、そして他の3曲とは打って変わってシンプルなピアノ弾き語りで歌われる“夏模様の猫”。4曲とも、ベクトルは違えど力強く王道を邁進している。ポップスを「作る」のではなく、ヒゲダンがやればポップスに「なる」。そんなバンドになってきたような気がする。(小川智宏)ポップもロックも更新した濃密なEP作品
Official髭男dismはメンバーそれぞれの音楽ルーツや技量がとても豊かであるため、制作に対して究極に自由度が高く、リリースする曲ごとに多様な顔を見せるバンドである。彼らのその音楽性は、確かなルーツに根ざすロックバンドとしての存在感とシーンの新旗手を担うポップクリエイターとしての高い意識とに裏打ちされていて、今作はEP作品として全4曲でヒゲダンのその両側面を濃密に表現した一枚となった。“HELLO”ではギラついたギターリフやパワフルなリズムでロックの原点を思わせながら、シンセのフレーズやミックスによって最新のポップミュージックとして見事に着地する。“パラボラ”は彼らの持ち味である良質なメロディが光るバンドサウンドをシンプルに響かせ、一方で“Laughter”は、ストリングスをフィーチャーしながら、ヒゲダンの「ロック」を大きくアップデートした感動的な楽曲となった。ポップかロックか、という不毛な二元論は彼らにははなから無用であることを証明する強いEPだ。それにしてもピアノ弾き語りで聴かせる“夏模様の猫”での歌声の美しさ。藤原の歌の表現力を堪能できる一枚でもある。(杉浦美恵)(『ROCKIN'ON JAPAN』2020年9月号より)
現在発売中の『ROCKIN'ON JAPAN』2020年9月号にOfficial髭男dismのロングインタビューを掲載
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