これもCOVID-19エフェクトと呼ぶべきか。ロックダウン中に時間を持て余し、多くのアーティストが配信ライブや新曲のリリースを行ってきたこの数ヶ月。ミューズのマシュー・ベラミーもそのひとりで、「ロックダウン中に感じた自分の気持ち」を素直に表現したというソロ新曲“Tomorrow's World”を発表したのを皮切りに、6月には“アンインテンデッド”のアコースティック・バージョンを主体とした本EPをリリースした。ミューズのデビュー・アルバム『ショウビズ』収録のクラシック・チューンを約20年ぶりに引っ張り出してきたのには、もちろん理由がある。《早く君のところに行きたい。でもまだ行けないんだ、壊れた過去の破片を繋ぎ合せてからでないと》と歌われる本曲は、人との繋がり、触れ合いを絶たれたロックダウン下の人々の心象風景と見事に重なり合うからだ。
マシューは昨年、『ゲーム・オブ・スローンズ』のインスパイアード・アルバムに初のソロ名義曲となる“Pray(High Valyrian)”を提供していた。大好きなゲースロの世界に没頭し、北欧やケルトの神話を彷彿させるスペクタクルな交響曲を構築した同作と比較すると、ロックダウン下でリリースされた2曲が極めてパーソナルな思いから発したナンバーであるのは間違いない。でも、パーソナルであることが楽曲の簡素化には繋がらないのがマシューのマシューたる所以で、バッハのプレリュードをオマージュしたピアノ・バラッドである本バージョンで、彼はロックダウン中の心象をまるで宇宙空間に一人取り残されたかのようなドラマティックな領域に解き放っている。そう、ゲースロの神話世界に勝るとも劣らない異界なのだ。彼のイマジネーションは孤独や孤立を養分として、より豊かに実るものなのかもしれない。 (粉川しの)
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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』9月号に掲載中です。
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