見果てぬ次元に極まる美と衝撃

ビッフィ・クライロ『ア・セレブレーション・オブ・エンディングス』
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ALBUM
ビッフィ・クライロ ア・セレブレーション・オブ・エンディングス

昨年リリースされた映画サウンドトラック(というか先に音楽ありきで映画が製作された)『バランス、ノット・シンメトリー』も、ビッフィ・クライロの音楽的なバリエーションを隅々まで網羅するようなものだったが、前作『エリプシス』から4年ぶりのオリジナル・アルバムとなる今作の存在感はやはり別格だ。「獰猛なる衝動炸裂」と「冷徹にして聖なる音の境地」という両極端をひとつのパースに描き切る、ビッフィ・クライロという唯一無二の音楽の本質が、壮絶なまでの美しさとダイナミズムをもって全11曲の中に結晶している。アルバムの幕開けを飾る“ノース・オブ・ノー・サウス”の、灼熱のダイヤモンド・ダストの如き轟音とアンサンブルの黄金律に触れれば、今作含めオリジナル作品では3枚連続でUKチャートを制するに至った彼らの真価が最高の形で体感できる。そういう作品だ。

『バランス〜』の発売から間もなく今作の制作に取り掛かったというサイモン/ジェームズ/ベンの3人が共同プロデューサーに迎えたのは、前作も担当のリッチ・コスティ(ミューズサム・フェンダーetc)と、今作で新たに参加したスティーヴ・マック(ザ・チェインスモーカーズエド・シーランetc)。ロックの熱量を量子化したようなハイブリッドな質感が印象的な先行シングル曲“インスタント・ヒストリー”や雄大なバラード“スペース”では共作ソングライターとしてもその手腕を発揮するポップ職人=スティーヴのクリエイティビティが、ビッフィ・クライロの音楽世界を格段に立体的かつ色彩豊かに立ち昇らせてくるし、彼らの野性を伸びやかに解き放つ“エンド・オブ”、“ザ・ピンク・リミット”のような楽曲とのコントラストは、生音も電子音も高次元で統合するバンドの揺るぎない肉体性を証明するものだ。

神との対話の中で「替えの利かない本物」の在り処を必死に模索する“インスタント〜”をはじめ、混迷を極める世界の中で己の存在意義と真っ向から対峙する批評性と覚悟に満ちた今作。コロナ禍により当初の5月発売予定から延期にこそなったものの、聴く者すべての意識を美と衝撃で鋭く研磨するようなこのアルバムは、指針なき2020年の強靭な黙示録として頭と心に響いてくる。そして、最終楽曲“コップ・シロップ”。喉も裂けよとばかりにリフレインされる「Scream, everybody」の絶叫が、アコギの静謐なパート/ストリングス響く流麗な絶景をも内包しながら、6分超えのドラマティックなカオスを編み上げていく図は何度聴いても戦慄必至。 (高橋智樹)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』10月号に掲載中です。
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ビッフィ・クライロ ア・セレブレーション・オブ・エンディングス - 『rockin'on』2020年10月号『rockin'on』2020年10月号
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