去年から精力的にリリースを続けている、イギリスのR&Bユニットのソー。ただ、単純にR&Bと言い切るには語弊がある。というのも、ごくコンテンポラリーなR&Bを狙っているわけではないし、かといってダンス・シーンを担っているわけでもない。さらにはグライムなどイギリスのヒップホップやUK独自のブラック・ミュージックを背負って世界に発信しようとしているわけでもない。ただ、ブラック・ミュージックの歴史全体を呑み込んだうえで、イギリスを拠点とする当事者として表現を発信していきたいというユニットなのだ。
ユニットを牽引しているのは、マイケル・キワヌーカのマーキュリー賞受賞作ともなった『キワヌーカ』の共同プロデューサーのインフローで、これまでアルバム3枚をリリースしてきているが、メディアへの露出を一切避けているので、ユニットの素性も詳細もまったくなにもわからないのだ。ただ、わかるのは、どこまでもコンテンポラリーなR&Bを聴かせつつ、ブラック・ミュージック全体の歴史も思わせる闘争の文脈も感じられる音となっていることで、さらに歌のメッセージは、今の時代における差別や黒人であることとどう向き合うのかというテーマが主軸となっていることだ。
特に前作『Untitled(Black Is)』がジョージ・フロイド事件直後の大作となったため、今作は聴きやすさとクラシック感とブラック・ミュージックらしさ、そして黒人としてのメッセージが特に凝縮され、このユニットのよさをコンパクトにまとめているところが魅力的だ。“Free”でヒップホップの古典的なネタ“アパッチ”を思わせるリズム・パターンを使い、どこまでもポップで滑らかなグルーヴを被せ、ブレイクでかつてのソウルIIソウルを思わせるハーモニーと空気感を生み出すところがとてもUK的だし、このセンスが素晴らしい。(高見展)
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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』12月号に掲載中です。
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