怪物が仕上がるまでの5年間

ジョニ・ミッチェル『アーカイヴス Vol.1:アーリー・イヤーズ(19631967)』
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ジョニ・ミッチェル アーカイヴス Vol.1:アーリー・イヤーズ(19631967)

ジョニ・ミッチェルは長いキャリアの中でジャズ、フュージョン、ロック、ファンクなどなど多様なジャンルをクロスオーバーしながら音世界を拡大してきた作家だが、一方でその私的な心象風景をどこまでも美しく音像化するソングライティングとアコースティック・ギターの手腕は68年のデビュー作『ジョニ・ミッチェル』の時点で完成されていた。2014年には1966年のライブ盤が発表されており、そこに収められた凄まじい演奏に圧倒されたところだが、今回はそのさらに前を含む、1963年から1967年までの、つまりデビュー前の期間におけるライブやデモ音源をまとめたアーカイブ集がリリースされる運びとなった。未発表29曲を含む、計6時間超の5枚組。ディスク3~ディスク5は1967年のものであるが、最初期の音源がここまで美麗な録音で残されていたというのは僥倖と言うほかない。さらに、映画監督キャメロン・クロウによる大ボリュームのインタビューを含んだ解説書が付属されており、なかなか現況が掴みづらい彼女の最新の言葉を読むこともできる。ジョニ・ミッチェル、19歳から23歳までのファイブ・イヤーズ。今では我々は、この期間にカナダからアメリカへの移住、出産そして養子縁組、結婚など、彼女の人生に大きな影響を与えるイベントが相次いで起きたことを知っている。1963年、1964年の音源を中心にまとめられたディスク1、1965年、1966年のディスク2と、そうした事件の前後で生ずる演奏の違いを聴き比べることができるのが本作の有難いところである。そして、ディスク4からディスク5に収められた、1967年10月27日ミシガン州のカンタベリー・ハウスでのライブ。ここに今回の、デビュー前のジョニ・ミッチェルのクライマックスがある。およそどの時代に現れたとしても必ず時代を変えるだろうと確信させるに足る天才の顕現。

そう、時系列に並ぶこの5枚には、初々しいフォーク/カントリー歌手だった少女の、徐々に歌に力が増し、アコギの音色が冴えわたっていく、その進化の過程と最初の絶頂が明確に刻まれているのである。この成長の物語を体感した後に『ジョニ・ミッチェル』を聴き直すと、これまでと違った凄味を覚えるはず。また、見逃せないのが本作の題に記された「Vol. 1」の文字。これはつまり、この後が続いていくことを期待してよいのだろう。前述したキャリアにおける様々な変遷が、ことごとくスリリングな驚きと興奮に彩られていた彼女だけに、このシリーズは全品が家宝級のシロモノになることを今の内に予言しておく。(長瀬昇)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』12月号に掲載中です。
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ジョニ・ミッチェル アーカイヴス Vol.1:アーリー・イヤーズ(19631967) - 『rockin'on』2020年12月号『rockin'on』2020年12月号
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