現在22歳のショーン・メンデスにとって、今作『ワンダー』がすでに4作目のスタジオ・アルバムであり、すべてのアルバムが全米1位を記録─という時点で改めて驚きを禁じ得ないが、今作に彼が焼き込んだ自身の劇的変革と進化、そしてソングライター/表現者としての成熟の速度は、さらなる驚愕と感激を聴く者にもたらすものだった。
「君に愛されるって、どんな感じなんだろう」という無垢な感情を通して、自らの歌&楽曲と世界の境界線を無効化しようとするかのような、表題曲“ワンダー”のハイパーかつ神秘的なサウンドスケープ。“ハイヤー”で鮮やかに乗りこなしてみせる、スリリングなまでにタイトなR&Bの息遣いとグルーヴ感。“ティーチ・ミー・ハウ・トゥ・ラヴ”で描き上げる、ソウル/ファンクの突き抜けるような高揚感。静謐なピアノ・バラード“24・アワーズ”。オーケストラ・ノイズのイントロから動と静のハイエナジーなスペクタクルを描き出していく“オールウェイズ・ビーン・ユー”。そして、ジャスティン・ビーバーとのコラボレーションによるトラック越しに「セレブの闇」をミステリアスに活写する“モンスター”……。前作『ショーン・メンデス』まで色濃く感じさせた「ギター主体のオーソドックスなシンガー・ソングライター」の佇まいは、どこかジョン・レノン“ウーマン”を彷彿とさせる“ルック・アップ・アット・ザ・スターズ”など一部の楽曲に任せ、未知の領域を闊歩する音楽的冒険者の姿を、今作はまざまざと映し出している。
2019年には自らの財団を設立して若い世代の活動を支援するなど、それこそ彼自身が歩くソーシャル・メディアの如き存在感を放ちつつあるショーン・メンデス。だが、あくまでプライベートな視点から今作に綴られた彼の言葉は、どこまでもフラジャイルでイノセントな純粋さに貫かれている。逆に言えば、他ならぬその才気によってスターダムに押し上げられた彼が、日々狂騒感を増す状況の中で自らの表現の純度と透度を保ち続けるための決死の「祈り」として、その歌と楽曲の訴求力をポップの異次元へと押し上げるしかなかったのだろう。そう思わせるに十分すぎる、マジカルで切実な覚醒感が、今作には確かに備わっている。
「僕自身の一部が紙に書き留められ、歌として録音されたような気がしている。今まで以上に自分に正直になって、リアルを突き詰めた作品にした」――アルバムに寄せた彼の言葉はそのまま、時代の最先端で自らを音楽に結晶させ続けることへの畏怖と歓喜の証そのものだ。(高橋智樹)
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