アコギ救急箱

エディ・ヴェダー『マター・オブ・タイム』
発売中
EP
エディ・ヴェダー マター・オブ・タイム

エディ・ヴェダーが友人の子供を通して知った遺伝性の皮膚疾患、表皮水疱症のリサーチのチャリティ(EB Research Partnership)を去年11月に行った。そこで披露されたソロ新曲2曲に、去年自宅スタジオでレコーディングされた“Porch”などパール・ジャムの名曲とブルース・スプリングスティーンのカバー“Growin’Up”の計6曲が収録されたのがこの特別なアコギEP『Matter of Time』だ。新曲の2曲は闘病する子供達に向けられていて“Matter of Time”では《治療薬はもう見つかっている。だから闘うよ。あとは時間の問題だから》と歌う。実際今回チャリティをしたのも、資金さえあれば治療薬が完成する寸前まで来ているからだ。

もう1曲の“Say Hi”では友人の子供である《Eliにハイと言いに行こう》《君は泥棒だよ/僕の心を奪ったから》と優しく語りかける。両曲ともエディが映画『アイ・アム・サム』や『イントゥ・ザ・ワイルド』でサントラを手掛けた時同様のザ・ビートルズを彷彿とさせるメロディの美しさが際立つ。それに加えてエディが珍しく弾くピアノやグレン・ハンサードも参加したハーモニーなどの新しい展開が聴き応えがある。そこから“Just Breathe”や“FutureDays”など愛や死などより普遍的で壮大なテーマと向き合い、優しく包み込むように奏でる名曲が続く。苦痛や死や闇に向かいながらも癒しを求め、希望を信じるという、今の世界に語りかけるような広がりになっているのだ。しかも絶妙のタイミングでそれを蹴り破り逃避するようなキラキラなサウンドの“Growin’ Up”が入り、最後には現状への反発を歌う『テン』収録曲の“Porch”でロックンロールに締め括られる。6曲ながらも癒し、希望、逃避、反抗が詰まった今の時代への救急箱のような作品。(中村明美)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』3月号に掲載中です。
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エディ・ヴェダー マター・オブ・タイム - 『rockin'on』2021年3月号『rockin'on』2021年3月号
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