こんな代物が合法という奇跡

マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン『イズント・エニシング』/『ラヴレス』/『m b v』/『ep’s 1988-1991 アンド・レア・トラックス』
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ALBUM
  • マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン イズント・エニシング』/『ラヴレス』/『m b v』/『ep’s 1988-1991 アンド・レア・トラックス
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3月30日、バンドのツイッター・アカウントが「3月31日」という日付を示したところから、俄かに祭が始まった。そして3月31日、バンドの過去4作品が一挙にストリーミング配信とダウンロード販売を初解禁。“Only Shallow”が日本のSpotifyのバイラル・チャート1位に輝くなど、爆発的な反響を生んだ。現時点での最新作『m b v』からもすでに8年、なぜマイ・ブラッディ・ヴァレンタインは埃をかぶることなく今日的な影響力を維持し得ているのか。

ひとつは言うまでもなく、『ラヴレス』の存在。シューゲイザー、ひいてはロックの究極形のひとつとして無数のフォロワーを生み続けるも、未だ誰ひとりとしてその尻尾さえ掴めていないあの破格の名盤があってこそ、マイブラの伝説が絶えず語り継がれているのは間違いない。

『m b v』は『ラヴレス』と同じ境地まで突き抜けた部分と、ケヴィンによる終わりなき試行錯誤の経過がそのまま提示されたかのような部分とが混交された結果、いくら聴けども全貌を捉え切れない怪物作となっており、22年ぶりの新作としてあのようなアルバムを上梓したバンドの偉大さを示したが、仮に『ラヴレス』と『m b v』のリリース・タイミングが逆だったとしたら現在と同じ状況が生まれていたかというと、恐らくノー。

またそれは瑞々しい躍動感が魅力の初作『イズント・エニシング』と『ラヴレス』も、同様だ。

やはり91年というロック史上においても屈指に名作が多産された年に他の何にも劣らない一作を残した事実こそ、極めて重要だった。
また、2008年、2013年、2018年の来日公演において、とりわけ『ep’s 1988-1991 アンド・レア・トラックス』収録の伝家の宝刀“you made merealise”のフィードバック・ノイズにより改めてその無二の存在感を証明したことも大きかった(2013年のフジロックだけ、音量・長さともに控え目ではあったが)。

やはりマイブラは、代替しようがない体験。観る度に、そう痛感させられた。そう、体験という意味では、マイブラの音源はできるだけデカく、良い音で聴くべき。『ラヴレス』で発明され『m b v』に継承された、倍音を過度なまでに幾重に重ねることにより本当は鳴っていない音までもがそこに存在しているように、まるでこの世の何もかもがそこにあるかのように錯覚するあの幸福な感覚が、より鮮明にもたらされるからだ。その面で、今回の新装盤は高音質UHQCD仕様となっており、あの垂涎のトリップも一際捗るはず。

しかし、こうしてマイブラについて考え、言葉にすればするほど思い知らされる。一度この味を知ってしまった我々はもう一生、マイブラを手放せないのだと。(長瀬昇)



ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』6月号に掲載中です。
ご購入は、お近くの書店または以下のリンク先より。


マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン イズント・エニシング』/『ラヴレス』/『m b v』/『ep’s 1988-1991 アンド・レア・トラックス - 『rockin'on』2021年6月号『rockin'on』2021年6月号
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