世界中から絶賛を呼んだ2nd『チューズ・ユア・ウェポン』以来、6年ぶりとなる新作。もともと強烈なベースのグルーヴとそれに絡みつくボーカルを軸にしたソウルやR&Bを、それこそジャズからダブステップまで自由自在にアレンジとスタイルを駆使しながら打ち出す奔放なユニットで、『チューズ・ユア・ウェポン』はそんな自分たちのポテンシャルを全方位的にみせつけていく圧倒的な作品だった。
この作品の成功のおかげで、バンドの音そのものがサンプリングなどを含めてすさまじく露出されることになり、グラミー賞候補になったこともあって、次回作への期待が募る中、プレッシャーも相当あったはずだ。
しかし、完成に6年かかったのはその影響ではない。ボーカルのネイ・パームが18年にがんを患ったことで制作に時間がかかったことは否めないが、それまでにネイをはじめそれぞれのソロ活動のほか、次回作に向けたバンドとしての準備をじっくりと進めるなど、きちんと時間をかけて態勢を整えていたのだ。
結局、ネイが回復すると制作作業はいったんやり直しに。バンドはブラジルに渡り、70年代の音源がヒップホップのサンプリング・モチーフとして00年代から引く手あまたとなった、伝説のアレンジャー、アルトゥール・ヴェロカイとのコラボレーションを実現させる。その“ゲット・サン”、これが本当に素晴らしい出来。ここから派生的にさらに新曲も出来上がっていき、このアルバムの不思議な明るさと軽やかさをもたらすことになったといっても過言ではないはずだ。
そして、それは病を乗り越えたネイの心境も反映しているものでもあるはずだし、さらにバンドから今の世界へ伝えたいことでもあるはずで、このバンドの一皮むけたしなやかさを実感する名作となっている。(高見展)
ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』8月号に掲載中です。
ご購入は、お近くの書店または以下のリンク先より。