Official髭男dism『Editorial』徹底クロスレビュー! 4人の決意に導かれた、新たなグッドミュージックのあり方

Official髭男dism『Editorial』
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ALBUM
Official髭男dism Editorial

ポップスを塗り替えるポップス

すごく不思議なポップアルバムだ。室内楽のようなミニマリズムとスタジアムレベルのスケール感がごく当たり前のように同居している。過ぎていく時間へのセンチメントと不変の愛の喜びが繰り返し折り重なる。優しさと凛とした強さが背中合わせで鳴っている。きわめてモダンなグルーヴとサウンドデザインの中に、ふと生まれてしまった鼻歌のような親しみやすさがある。

と、書いてみて、つまりそれがヒゲダンじゃんか、と思ったが、今回のアルバムはその「ヒゲダンらしさ」を保ったままどこまで外側にいけるかという挑戦のアルバムであるという気がする。たとえば個人的な印象としては「これぞヒゲダン」なファンキーチューン“ペンディング・マシーン”あたりを聴くとよくわかるのだが……乱暴な言い方をすればマニアックでディープな音楽のテイストに超ハイクオリティなメロディと明快なテーマを掛け合わせてポップスのほうに投げてみせる、というのがこれまでのヒゲダンの基本文法だったとするなら、今作で彼らがやっているのはそんなヒゲダン文法によってJ-POPのスタンダードをアップデートするという宣言だと思うのだ。僕は冒頭に「不思議」と書いたが、その不思議さを「当たり前」にしてしまえ、という意志の強さをこの14曲からは強く感じる。パーソナルな響きを持ちながらスタジアムロックに直行するような“Shower”、シンプルなラブソングでありながらその裏で鳴っているアンサンブルの半端じゃない解像度の高さに驚く“Bedroom Talk”。極めつきは最後の“Lost In My Room”だ。伸びやかなファルセット、複雑な音のコラージュの様相を呈しているトラック、緻密なエディット。かなり過激な曲だと思うが、アルバムを聴いてきた耳と頭には、100年前から歌い継がれてきた歌のように聴こえてくる。(小川智宏)

心の奥にある本音と願い

アルバムの冒頭を飾るタイトル曲“Editorial”。加工したボーカルのアカペラで構成された同曲はまさに本で言うところの「まえがき」で、どんな思いのもと今作を制作したのかが率直な言葉で綴られている。これまで彼らは紆余曲折のある人生の中で自らが見出し、育んできた哲学でもって、自分たちと聴き手の現在や未来を豊かにする楽曲を多く発信してきた。今作はそれに加え、これまで漠然としながらも心の奥に引っかかっていた複雑な心境や、言い表すことが難しかった本音にメンバー全員がより深く向き合っている。彼らの心の奥に触れるような重厚な気魄と、それらを優しい口調で伝えるような思慮深いポップネスが溶け合った、等身大の楽曲群だ。

愛する者の死を丁寧に紡ぐ“アポトーシス”では、“115万キロのフィルム”などで発信してきた「長い年月を共にしよう」というメッセージのその先を追求。具体的な生活の描写と幻想的かつバンドの息遣いを感じさせる音像で、我々を感傷的に、だがたくましく包み込んでゆく。胸のうちに渦巻く独り言のような歌詞に、憂いと華やかさを兼ね備えたアコースティックサウンドが交錯する“Shower”、とある夏の帰り道を描いた“みどりの雨避け”など陰の美しさを際立たせた楽曲はじっくりと染み入り、晴れやかなファンクチューンに反して悲痛な心情が並ぶ“ペンディング・マシーン”はユーモアでもって現実と闘う姿を体現。ソングライターの苦悩が生々しい“Lost In My Room”は、高く伸びるファルセットが救いを求めるようで切実かつ痛烈だ。ポジティブなムードを纏った既発曲含め、混乱の渦が立ち込める世の中を生き抜く姿が克明に記された『Editorial』。癒えぬ傷さえも隠さないほどに誠実な今作は、彼らの勲章に成り得るのではないだろうか。(沖さやこ)

(『ROCKIN'ON JAPAN』2021年9月号より)

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