あの日、我々は何を目撃したのか――マキシマム ザ ホルモン「面面面~フメツノフェイス~」を解剖する

あの日、我々は何を目撃したのか――マキシマム ザ ホルモン「面面面~フメツノフェイス~」を解剖する

配信ライブというものを初めて観たのは、ちょうど1年前くらいだったと思う。たった1年で、これだけ当たり前のものになるとは想像以上だった。いわゆる生中継型のものから、収録型のものも増えていき、普段は開催できない場所でのライブや、CG合成など映像に凝ったライブなど、その方向性は多岐にわたる。さまざまなアーティストが、さまざまな趣向を凝らした配信ライブを行ってきた。

しかし、当然のことながら、実際に体感するリアルのライブとどちらがいいのか?という命題が生まれる。そう訊かれたら「そりゃリアルなライブのほうがいい」というのは、アーティストもリスナーも同じだろう。現場で、生で感じる音の迫力、体験そのものの価値は何物にも代えられない。事実、有観客ライブが解禁されて以降、配信ライブの数は減ってきているわけだが、個人的な想いとしては、それが非常に残念なのである。たしかに当初は、無観客でしか開催できないがゆえの代替案だったかもしれない。だが、今やリアルのライブと配信ライブは、まったく別物のエンターテインメントだからだ。

配信ライブの価値とは、場所を問わず、自分の好きな環境で、ただ観るだけで楽しめること。いわば、テレビやYouTubeと同じ動画コンテンツなのである。対して、現地に行って味わうリアルのライブは完全に体験型コンテンツであり、目的がまったく違う。ゆえに、有観客ライブをメインに据えた同時配信ライブは、行けなかった人のための廉価版にならざるを得ず、動画コンテンツであるメリットを活かせない。かと言って、わざわざ配信のみの映像をつくるならテレビの音楽番組でもいい。やはり、有観客ライブと配信ライブは共存できない運命なのか……。そう思っていたところに、コンテンツビジネスを知り尽くしたバンドマンが現れた。マキシマムザ亮君(歌と6弦と弟)である。

なんせ、「ロックバンドのフランチャイズ化 マキシマム ザ ホルモン2号店プロジェクト」で、「2019 59th ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS」のブランデッドコミュニケーション部門 BカテゴリーにおいてACCシルバーを受賞した男。バンドマンでありながらアウトサイダー広告代理人。誰も思いつかないことをやってのける彼が、またやってくれたのだ。

配信映像の元になったのは、今年4月に名古屋・大阪・横浜の3会場で行われた「全席・顔面指定席ライブ『面面面~フメツノフェイス~』」。実際の現場の様子は、『ROCKIN’ON JAPAN』6月号のレポートなどを参照していただくとして、そもそも超こだわりぬかれたコンセプトのライブであったことは今さら説明不要だろう。本稿で重要なのは、その2ヶ月後に実施された「ホルモン初の配信ライブ」のほうだ。
まずは、その概要をあらすじ形式でざっくりご紹介する。

2021年6月25日。生配信特番として集まったメンバーを前に、亮君がお馴染みの便所サンダルなどでタイムマシンを作成。ライブ映像を観るのではなく、今から2ヶ月前に遡ってライブをするのだという。慌てながらも4人は過去へ戻ってライブを敢行。コンセプトのもとに集まった腹ペコたちとともに熱狂を生み、本編を終えて現在に帰還した。すると、「おしっこちゃん(愛すべき痛キャラ)」カテゴリーでライブ中にイジられ、「タイムパトロール隊です」と名乗って会場をドン引きさせていた男が、突然叫びながらメンバーを追いかけていく。現在の4人がいる楽屋に現れた男は、自分は本当にタイムパトロール隊であり、「過去への移動で歴史が変わってしまった」と主張。怪しすぎる男をなんとか押さえ込み、再び2ヶ月前へ戻ってアンコールをスタートさせるものの、会場を謎の地震が襲う。男の言ったとおり、時空の歪みによって地球へ隕石が接近しているというのだ。地球滅亡を回避するため、宇宙へパワーを送る「X-M●N/スーパーヒーロー/星守る者(特殊な異能力を持ってそうヅラ)」カテゴリーの腹ペコたち。結果的に隕石衝突を回避し、ライブは無事終演を迎えることができたのだった――。

配信された内容はこんな感じだ。つまるところ、マキシマム ザ ホルモンは、自らのライブを素材として活用し、タイムリープものの壮大な物語を作り上げたのである。実は「生配信特番」自体が始まった瞬間、ダイスケはん(キャーキャーうるさい方)が生放送の証拠として見せた新聞や「メガネがどっか行ってん!」という他愛ない言葉からシナリオは始まっていた。さらに、「一人ひとりの顔という個性を大切にしてライブをしたい」という想いから生まれた「顔面指定席」という斬新なコンセプトすら、シナリオを動かすキャラクターを仕込む伏線として使ってしまう大胆さ。筆者自身は実際のライブを観ていないため、現場でどのような説明があったのかはわからないが、ホルモンのことだから、そこまで種明かしはしていないだろう。少なくとも、「タイムパトロール隊の男」が暴走した時のまわりのオーディエンスの引いた表情はガチに見えた。当日のライブにはまったく関係ない隕石などのCG映像もしっかり作り込み、ついでにMARVEL映画よろしくポストクレジットシーンのおまけつき。最初から最後まで、クオリティに妥協はない。

そうして考え抜かれたシナリオの巧妙さももちろんだが、この企画のすごさはそこだけではない。注目すべきは、冒頭に書いた「有観客ライブと配信ライブの共存」という問いに対する答えが、完璧に揃っていることである。

①有観客ライブに実際に参加したオーディエンスが楽しめること。
これはまず間違いなくどんなライブでも確実に達成できる大前提としてひとつ。

②配信版しか観ていないからこそ味わえる楽しみがあること。
なんなら、会場で何があったか知らないほうが楽しめたはずだ。ここで「配信がリアルの廉価版になる」問題もクリア。

③有観客ライブに参加していても、改めて配信版を観なければ全貌がわからないこと。
配信を観て初めて完成するのは一目瞭然。「ライブを観たから配信はいいや」とはならなかったに違いない。

④DVDなどのパッケージ商品では絶対に不可能な演出であること。
映像作品として凝れば凝るほどパッケージっぽくなってしまうことも多いが、この仕掛けは「配信番組」でなくては成立しない。

⑤タイムリープものが嫌いな日本人はいない。
これはやや極論だが、「タイムパトロール」にしたって、きっと元ネタは国民的マンガ『ドラえもん』だ。今なお愛され続ける『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズや、何度も映像化された名作『時をかける少女』、現在アニメと実写映画化で盛り上がっている『東京卍リベンジャーズ』など、とにかく「過去を変えたことで、未来が変わってしまう!」という筋書きを、日本人はサクッと飲み込み、伏線回収系シナリオに興奮してしまいがちだ。少なくとも筆者は大好きだし、きっと亮君もそうなのだろう。①~④の理屈より、亮君自身が「タイムリープしてライブするっておもしろくね?」と厨二脳全開で発案し、このシナリオを誰より楽しんで書いていること。マキシマム ザ ホルモンの原動力は常にそこにあるが、その情熱がブレないことが、いちばん大きな成功理由だと思う。

ちなみに、タイムパトロール隊の男はこう言っていた。
「あの日会場にいた多くの人間に、音楽で生きる活力を与え……余命を延ばしてしまった」「あの4人は、腹ペコたちの人生を変えてしまったのだ!!」

ライブという場所で得られるエネルギー、その衝撃によって、人生が変わることは本当にある。コロナ禍でライブに行く機会が減って、その価値を痛感した人は、筆者を含め多くいるはずだ。リアルのライブの大切さを、あえて配信のみでさりげなく提示する演出が深い。

体験型コンテンツと動画コンテンツの特性を理解し、徹底的な準備を経て成功させたマキシマムザ亮君。とはいえ、同じことを繰り返すことは不可能だ。誰も思いつかないことをやってのけるのがマキシマム ザ ホルモンであると同時に、マキシマム ザ ホルモンを超えていかなければならないこともまた、マキシマム ザ ホルモンの宿命なのである。(後藤寛子)


 

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