2019年に開催された、『だから僕は音楽を辞めた』と『エルマ』の2作をもとにしたコンセプトライブの再演として、今年3月に開催された「LIVE TOUR 2022『月光 再演』」。その映像化作品である。バンド演奏の肉体性と、この音楽の中に生きる物語のふたりの主人公――エルマとエイミーの命の動きに深く寄り添う演出が融和した、あまりに特別なライブ空間を堪能できる。そしてやはり、この物語にはヨルシカの本質がある。

人が何かを描きたいと思う、人が何かを語りたいと思う――すなわち、人が「創作」を求めること。ヨルシカはそこにある「悲しみ」に深く向き合ってきた。ヨルシカにとって創作することは自らの強さや正しさを誇示することではない。むしろ、己の弱さや愚かしさの輪郭をなぞるような行為なのだろう。作品にとって作者は神かもしれないが、神とは往々にして無力なものでもある。彼らはその無力さを隠さない。こうして何度でもエルマとエイミーが瑞々しい姿を私たちの前に現すのも、ここにある悲しみに、ヨルシカのふたりが何度だって立ち帰ってきたからではないか。（天野史彬）

『ROCKIN'ON JAPAN』8月号より