居場所がないなら、ここに来れば

ヨルシカ『ブレーメン』
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ヨルシカ ブレーメン
甘美な一曲である。甘苦い孤独と諦念を舌先で転がしながら、音楽の快楽に身を委ねている。とろんとした眼差しで、回る世界を他人事のようにちらりと見やりながら、誰に向けるでもなく呟く「明日なんてどうでもいい」というひと言が、たしかに明日を運んでくるような、そんなデカダンな幸福感に満ちている。

“又三郎”“老人と海”“月に吠える”と続いてきた文学オマージュの最新作は、『グリム童話』のひとつ『ブレーメンの音楽隊』にオマージュを捧げた“ブレーメン”。人の世に居場所を失くした動物たちが音楽隊に入るためにブレーメンを目指し、結果、目的とは違った形だが動物たちは幸せな世界を獲得する、というのが『ブレーメンの音楽隊』だが、この物語はとてもヨルシカに似合う。何故なら彼らもまた、居場所を失くしながら音楽と共に彷徨う魂を表現し続けてきたから。

艶やかで、それでいて端正に絡み合う音の色気。その中でsuisが歌う《そのうちわかり合おうぜ》なんて言葉が、このうだるような夏の暑さの中で心地よく冷たい。こんな明日の迎え方も、こんなあなたの迎え方も、悪くない。(天野史彬)

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