前作『era』が片桐(Vo・G)の私小説をポップスとして着地させた作品ならば、今作ではより広い視野で捉えられた物事や心情を物語として昇華し、バンドとしての特性を活かしながら枠にとらわれない音楽表現を追求したと言えるだろう。andropの内澤崇仁やTurntable Filmsの井上陽介らとアレンジを共にし、より自由になった3人の作るサウンドスケープは、色づいた花びらを揺らす春の風のようにたおやかで凛々しい。
日常でひとりふと物思いに耽る瞬間を、情感と情景を交えて誠実に綴る。矢継ぎ早に言葉を繰り出す爽快感に富んだ“Eye”、淡々とした浮遊感で自分のペースで生きる大切さを歌う“ゆれて”、アコギとDTMとウィスパーボイスが夜明け前の静と動を描く“サイレンと東京”などの新機軸もさることながら、バンドサウンドとピアノでシックかつ丁寧に紡ぐバラード“夢が夢であるうちに”の伸びやかで飾らないボーカルが胸に染み入る。自分の弱さや不安を認めるのは痛みが伴うかもしれない。だがそこと向き合うからこそ迎えられる朝がある。10曲の物語がそう語りかけるようだ。(沖さやこ)
(『ROCKIN'ON JAPAN』2023年5月号より抜粋)
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弱さを受け入れて、朝を迎えて
Hakubi『Eye』
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