前作『Billow』は、ポップの先端を丸く柔らかくして包み込むような歌唱とサウンドメイクが印象的だったが、今作では《嗚呼 まともじゃいられないわ》と愛の矛盾を狂乱的につづった冒頭“ラブシック”を一聴しても、刻々と指標が変化するポップシーンの中心を鋭く貫くような音像が広がっているのがわかる。
『Ghost Pop』と題された今作には、ボカロPとしての活動も並行して続ける須田が歌い紡ぐ、人間のどうしようもなさや切なさを描いた仄暗い部分=「ゴースト」と、その闇さえも一筋の輝きで包み込む「ポップ」のバランス感覚がより研ぎ澄まされた楽曲が並ぶ。TVアニメ『スキップとローファー』OPテーマ“メロウ”では「ポップとは何か?」を今一度自身に問いかけ、噛み砕き、飲み込んでは吐き出すという作業によって、今作で掲げる「ポップ」の極値を更新した。一方、中盤に置かれ異彩を放つ“Howdy”はその「ゴースト」が最も色濃く出た楽曲。人間の身体には本来刻まれていないであろう絶妙なタイム感が生み出す、浮遊しながら堕ちていくような得も言われぬ感覚はまさに真骨頂。(橋本創)
(『ROCKIN'ON JAPAN』2023年7月号より抜粋)
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漂うポップを貫いて
須田景凪『Ghost Pop』
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