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2022年に体調を崩し再起に向かう気持ちで作られたというこのアルバムについて、セルフライナーノーツで秋田ひろむはこんな率直な言葉を綴っている。音楽をやることで「『居場所がないと歌う』という居場所が与えられた」のだと。そして、「新しく出会うこの世界の住人と、相容れない思考と言葉をなんとか駆使し、この社会とコミュニケーションを図った。その過程がこのアルバムだ」と記す。つまり、自身の苦境にあって彼が想ったのは、自らに居場所を与える他者の存在であったのだ。その想いが宿されているのが《涙声 離せない あなたの手 あなたの手 まだ温いんだ》(“アンチノミー”)や《君の目は真っ赤だ 何があった涙/泣きじゃくってまっさら 生まれ変わる明日》(“まっさら”)といったラインの数々。自身の声を、言葉を最前面に置いたサウンドプロダクションゆえ、脳へ心へ真っ直ぐ届いてくる。秋田ひろむは未だ雨曝しの中、片手を「生」へと伸ばし続けつつ、残る片手を己以外の魂のため使おうとしている。(長瀬昇)(『ROCKIN'ON JAPAN』2023年12月号より抜粋)
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