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ストリーミング再生3億8000万回超えの“Overdose”も収録した、なとりの1stフルアルバム。なとりが時代を象徴する存在と呼ぶにふさわしいことを決定づける作品だ。ブラックミュージックのアレンジに歌謡曲的メロディを乗せるバンドや、ボカロPからロックやポップスのフィールドへ出ていったアーティストたちの要素を受け継いで、音楽を取り巻くメディアの流れに合わせてイラストやミュージックビデオ、ショート動画などを作り上げ、そして脱力感のある低い声に裏声を混ぜた歌や物語的歌詞で今の時代を生きる人たちが裏垢で見せるような痛みに寄り添う。諦念と怒りの境界線を這う歌声から始まる“食卓”では、《この、細胞を踊らせてくれよ/その、尖りきった言葉で!》と匿名で否定的なコメントを投げてくるやつらを挑発し、誰もがSNSの狂騒で《正しい呼吸も忘れて/溺れていく》現代社会を描く。ノスタルジックなメロディをアコースティックなライブ感で録音した“夜の歯車”が中盤で光っているのも本作の魅力。(矢島由佳子)(『ROCKIN'ON JAPAN』2024年2月号より抜粋)
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