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映画『52ヘルツのクジラたち』の主題歌として書き下ろされた新曲はSaucy Dogの真骨頂と言えるミディアムナンバー。派手なギミックなどなくとも、サウシーはそのバンドアンサンブルと歌唱の繊細なニュアンスで、しっかりと楽曲のテーマを表現することができるバンドだ。この曲では、映画作品の「孤独を抱える主人公たちが愛を探す旅に出る」というテーマに呼応するように、歌い出しの石原の歌声には微かに現実世界への諦念が滲む。その歌声に徐々に感情がこもっていく様はそのまま主人公の気持ちと重なり、力強く響くサビのメロディには希望が映し出されていく。もうこの歌声自体がひとつの物語だ。何より《君が居ればどんなに痛い/終わりのない悲しみも/存在しない?冗談じゃない/乗り越えていける気がする》という歌詞にリアルが宿る。能動的に「乗り越えていける」と思わせてくれる「君」との出会いにこそ意味があると、石原の作詞は本質を突く。随所で包み込むようにあたたかく響くコーラスワークもとてもいい。(杉浦美恵)(『ROCKIN'ON JAPAN』2024年4月号より抜粋)
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