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ふと息を吐くような大森元貴の歌声による《吹いた/そよ風が/夏を揺らすの》という歌い出しから歌詞に描かれた情景がみるみるうちに鮮明に浮かんでいく。セミの鳴き声や優しいコーラスが重なっていき、《ゆっくりと/ゆっくりと/見えない速さで/進んでゆく》と歌われる。このラインの歌もまた、歌詞がそのまま憑依したような再現力であり、序盤からミセスの音と言葉は分かちがたく結ばれているという、アーティストとしての力量を認識させられる。やがて暑さをクールダウンさせるような風鈴の音色も聴こえた。時間は刻々と進んでいく。私たちは見えない速さで大人になり、無垢な笑顔はいつの間にか消え去ってしまう。生きていればつきまとうやるせなさと刹那を、やたらと暑く儚さと厭世を宿した夏のせいにしながらも、いつぞやの恋をした夏を思い出し、ささやかな希望で終結させる。音楽を通したミセスの丁寧で緻密なストーリーテラーぶりに改めて感服する名曲だ。(小松香里)
(『ROCKIN'ON JAPAN』2025年10月号より)
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