「ポップ」と「破壊力」は矛盾しない

東京事変『スポーツ』
2010年02月24日発売
ALBUM
東京事変 スポーツ
遠目にはキッチュなポップ・アートのように見える点描画が、実は核爆弾をきっちり並べて描かれた危険なものだった……とでもいうくらい、これまでの東京事変の音楽は聴く側の「距離感」によって大きく姿と意味合いを変えるものだった。彼らが4枚目となる今作を「スポーツ」というコンセプトで作り始めたのもそういうことかもしれない。勝った負けたの「データ」にしか興味のない傍観者には、そこに籠められた「物語性」などわかりゃしない。それでも彼らは今作の、壮麗な構築美が光る“生きる”のコーラスから“極まる”の目の眩むような濃密な音響に至るまで、一瞬でも気を抜いたら振り落とされそうなほど凄絶なプレイの数々を通して、メンバー個々のカタルシスとルサンチマンを惜しみなくアンサンブルに注ぎ込んでいった。そんなタフな覚悟が彼ら自身に、「データ」至上主義の傍観者すら圧倒的な「物語性」の力で捩じ伏せる強度を与えた。椎名林檎の鮮烈で妖艶なポップの世界と、バンドとしての破壊力は、今や東京事変という巨大なパースの中で1mmたりとも矛盾することなく存在してしまっている……それを証明する驚愕の名盤。(高橋智樹)
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