考えてみれば、ここまでカニエが「語らなければならない」状況に追い込まれたのは初めてではないか。昨年のテイラー・スウィフトとの騒動は言うまでもないし、前作『808s&ハートブレイク』は彼のディスコグラフィの中でもオートチューンとエレクトロを全面導入した特殊な作品だった。プロデューサーとしてもパフォーマーとしても活躍するヒップホップ界の第一人者としての自負を証明しなければならないというプレッシャーはかなりのものだったはずだ。けれど、その強迫観念とも言える「語らなければならない」というプレッシャーを、彼はラップで語ることによってではなく、むしろ一人ポップ・ミュージック史とも言うべき百花繚乱の楽曲群に投影している。超絶テンションのゴスペル・コーラスで幕を開ける“ダーク・ファンタジー”、先行公開されたクリムゾン“21世紀の精神異常者”をサンプリングした“パワー”、エルトン・ジョンからアリシア・キーズ、ドレイクまで参加のハイライト“オール・オブ・ザ・ライツ”、そして映画にまで拡大した本作最強のトラック“ランナウェイ”。彼は語れぬほどの言葉を語る必要があったからこそ、彼は身を呈して音楽にそのすべてを捧げた。ボン・アイヴァーの誘致も含む大胆なゲスト陣もだからだろう。ここで聴けるサウンドこそ彼の告白である。そのテンションが全13曲に満ちている。これは圧巻だろう。(古川琢也)
語れぬ言葉を語る
カニエ・ウェスト『マイ・ビューティフル・ダーク・ツイステッド・ファンタジー デラックス・エディション』
2010年12月22日発売
2010年12月22日発売
ALBUM+DVD
考えてみれば、ここまでカニエが「語らなければならない」状況に追い込まれたのは初めてではないか。昨年のテイラー・スウィフトとの騒動は言うまでもないし、前作『808s&ハートブレイク』は彼のディスコグラフィの中でもオートチューンとエレクトロを全面導入した特殊な作品だった。プロデューサーとしてもパフォーマーとしても活躍するヒップホップ界の第一人者としての自負を証明しなければならないというプレッシャーはかなりのものだったはずだ。けれど、その強迫観念とも言える「語らなければならない」というプレッシャーを、彼はラップで語ることによってではなく、むしろ一人ポップ・ミュージック史とも言うべき百花繚乱の楽曲群に投影している。超絶テンションのゴスペル・コーラスで幕を開ける“ダーク・ファンタジー”、先行公開されたクリムゾン“21世紀の精神異常者”をサンプリングした“パワー”、エルトン・ジョンからアリシア・キーズ、ドレイクまで参加のハイライト“オール・オブ・ザ・ライツ”、そして映画にまで拡大した本作最強のトラック“ランナウェイ”。彼は語れぬほどの言葉を語る必要があったからこそ、彼は身を呈して音楽にそのすべてを捧げた。ボン・アイヴァーの誘致も含む大胆なゲスト陣もだからだろう。ここで聴けるサウンドこそ彼の告白である。そのテンションが全13曲に満ちている。これは圧巻だろう。(古川琢也)