何周も何十周もした末に、「真っ当にギターを鳴らす」ことの価値が再び問い直されようとするこの時代を象徴するかのようなアルバムだ。それをいち早く鮮やかにやってのけたのは、やはりアークティック・モンキーズだったのだ。(粉川しの)
大抵の男性は、女性を口説くのが下手だ。そのロマンス下手を、「かわいい★」とポジティヴに解釈し、気を利かせて助け舟を出す……の図式を何度も体験すると、正直うんざりする。何より、そうやって相手を未熟と判断して甘やかした時点で、こっちの中に先生/生徒(下手したら母/子)めいた感覚が生まれるのは、まったくもってセクシーではない。
もっとも、ロックの多くには、男性の抑圧されたパッションのエネルギッシュなはけ口として機能する、ホモ・エロティックな面が存在してきた(ボウイもモリッシーもカートもリアムも、女以上に男ファンがいる)。そう考えれば、聖三位一体同様、女は案外、ロックの中でも疎外されているのである。かと言って、R&Bの甘茶なネチネチや、ダンス系の即物的なノリも性に合わないわ――そんな嘆きを抱える文学系ロック女にとって、本作は朗報だと思う。明滅しながら流線型にせりあがるリヴァーブ・ギター、タメの効いたグルーヴ、甘美にそよぐメロディ。音そのものの誘惑度も相当に高いし、歌詞も臆面なくロマンスを称揚する。1stに“ア・サートゥン・ロマンス”という名曲があったけれど、あの曲における「ロマンスの欠如」という現代的な嘆きに対し、本作はちゃんと回答を出しているのだ。そのぶん、前作路線のハード&タフ路線な曲は、据わりが悪かったりもする。が、ときめきに満ちたウェルメイドなラヴ・ソングの数々と王道ぶりは、バンドとしての成長も見事に切り取っている。天才子役から、いよいよ主役俳優に出世した1枚。(坂本麻里子)