冬の孤立と決別し、春の孤高と出会う

ボン・イヴェール『ボン・イヴェール』
2011年06月22日発売
ALBUM
ボン・イヴェール ボン・イヴェール
来日したヴォルケーノ・クワイアーで先に彼の存在を知った人もいるかもしれない。ウィスコンシン州出身ジャスティン・ヴァーノン率いるBON IVERは、08年のデビュー作が絶賛され、同じくフォーク主体のフリート・フォクシーズらと並び一躍脚光を浴び、カニエ・ウェストまでがその存在を知り共演を依頼した程のUSインディ界の大スターだ。しかし、本作はそんな輝かしい状況とは真逆のどん底から生まれた。彼女に振られ、バンドも解散、レコード契約も失い、山小屋で基本的にはアコギ1本で作られたのだ。だから、厳冬の寒さに封印された孤独がまるで彼の壊れそうに美しいファルセット・ボイスに反響するような作品である。

この最新作は、しかし、いきなりマーチを鳴らすドラムとともにドラマチックに始まる。作品には、光が差し込み、彼は恐らくその山小屋から外に踏み出したのだろう。そんな彼を招き入れるような開放的なサウンドは色彩を増し、特徴的な彼のメロディがハーモニーを重ねる。ホーンが、ストリングスが、シンセサイザーが、解体したビーチ・ボーイズ・サウンドのように、静粛にしかしむせ返るように緻密に音を構築していく。サイドプロジェクトを経て、前作を上回る壮大なスケールを持つ今作はさらに広く彼の名を轟かせるはずだ。ただ、それでもここに描かれているのは傷だ。孤立からは解放され、冬は過去にすることができた。しかしそれはまるで真実の愛を諦める覚悟をしたかのように孤独に響く。だから、春の街に出た魂は行き場がなく彷徨う。その清々しくも哀しい空気がここには切なく、しかし高らかに鳴り響くのだ。(中村明美)
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