メジャーデビュー15周年を迎えるPlastic Treeのシングル曲“くちづけ”は、彼らのディープな真髄がポップに昇華されたラブソングだ。Plastic Treeはこれまでも、喪失感や欠落感という逃れがたい立脚点からラブソングを紡いできた。そしてこの“くちづけ”は、《いつか失くなってくなら 全部消して》という究極の願いが歌われる決定的な1曲だと言えるだろう。まず冒頭に現れる印象的なギターフレーズの煌めきが、はかなげであると同時に凛とした強さと熱量を放ち、一発でこの楽曲の世界へと聴き手を連れ去る。そして《呼吸する心臓が ざざ鳴りに重なれば/ふたりしかいない国 傘の中でたどり着いてた》というような有村竜太朗の独特の言語感覚とロマンティシズムも魅力的な芳香を放っている。サウンドにはUKロックからの流れを受け継いだ疾走感とグルーヴがあるが、やりきれない哀しみと甘美な悦楽が同時に身体を滑り落ちていくようなこの恋愛感覚の「密やかさ」は、日本的な情緒に根ざしていると感じる。ラブソングというポップの定型だからこそ、逆にプラの独自性が際立つ美しき1曲だ。(福島夏子)