ただ歌い続けるために

クリストファー・オウエンス『リサンドレ』
2013年01月09日発売
ALBUM
クリストファー・オウエンス リサンドレ
突然だったガールズ脱退の報から半年、クリスのソロが届いた。10年代以降、あまりにも特別だったバンドの事実上の終わりは、当事者にとってもあまりにもハートブレイキングなものだったよう。単純な心変わりや方向性の違いからではなくて少しずつずれていった「ガールズという有機体」へのコミットメントが、ついにクリスとJRの間ではっきりと別物になってしまったようで、そう考えるとやり切れなさと仕方ないという気持ちが渦巻く。が、本作は、クリスというソングライターがどれほどの才能の持ち主であるかを改めて知らしめる、最高の作品になっている。ああ、ガールズとは始まりに過ぎなかったんだ、皮肉にもそう頷かされてしまうアルバムなのだ。 

元々メインストリームのポップ・ミュージックに対して熱心なクリスらしく、楽曲のレベルはもはやグラミー級だといっていい。いつかどこかの有名なスターがクリスの曲を歌い出してもマジでおかしくないと思う。ジャンル云々も時代性も飛び越えたサウンド・スタイルは、ノスタルジックで可愛らしくて、ちょっとひねりを加えることで独創的に変貌を遂げたものばかり。“カモン・アイリーン”ばりのサックスが鳴り響いたり、ジェイムス・テイラーみたいなフォーキーさが見えたり。そうしたレトロなテイストを、クリスの歌い手としての天性が、モダンでありながら普遍的なものへと纏め上げている。ガールズのツアーをモチーフに、しかし極めてパーソナルな愛の始まりと終わりが美しく焼き付けられている。ガールズではできなかったこと、クリスの野心や果たせなかった夢が舞う箱庭のユートピア。 (羽鳥麻美)
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