たぶん、今年度のベスト・アルバム候補
きのこ帝国『eureka』
2013年02月06日発売
2013年02月06日発売
ALBUM
昨年5月にミニ・アルバム『渦になる』でデビューしたきのこ帝国のファースト・フル・アルバム。『渦になる』も良かったが、今作は本当に素晴らしい。一聴して耳に残り、いつまでも脳裏にこびりついて離れない。甘美なメロディ、密やかに鳴るノイズ、蠱惑的な空間構成、広がりのあるサウンド・デザイン、繊細極まりないアンサンブル、練り上げた音色、魅力的な声。観念的な言葉遣いの中に、どきりとするような強烈な棘と毒と狂気、傷つきうちのめされる魂と、不安や喪失が見え隠れする。いわゆるシューゲイザーやチルウェイヴといわれる音楽の日本的展開と言っていいと思うが、日本語の表現としてきちんと成立しているから、借り物感が感じられない。まるでSHINGO2がマイ・ブラッディ・ヴァレンタインをバックに歌っているような繊細な感情表現が印象的な1曲目“夜鷹”に始まり、よりロックな激情をほとばしらせたり、アンビエントなドローン音響がたゆたっていたり、言葉が鋭く爪をたてていたり、音の渦に言葉が漂っていたり、多彩な振れ幅をもった全9曲は、捨て曲がまったくない。見事である。(小野島大)