今年3月にレコード会社移籍と同時に自主レーベル=「Do Thing Recordings」設立を発表した真心ブラザーズが、11月19日に移籍第1弾アルバム『Do Sing』をリリースする。ブルース/ソウル/ロックンロールのエッセンスだけを凝縮したようなYO-KING&桜井秀俊の楽曲が、極限までシンプルに削ぎ落とされたバンド・サウンドとともに爽快な躍動感とユーモアをもって響き、聴く者すべてを前へ明日へと闊歩させていく。1989年のメジャー・デビューから25年にしてのレーベル設立も、最新作『Do Sing』の12曲に結晶した「健全に、楽しくロックを鳴らす」という真心マジックも、すべてが彼ら自身の確固たる哲学に基づいたものである――ということが、以下のYO-KING&桜井のリラックスした語り口からもリアルに読み取っていただけると思う。

インタヴュー=高橋智樹、撮影(インタヴューショット)=塚原彩弓

どんな人とやっても、自分の味を出せる、っていう自信がある(YO-KING)

――「デビュー25周年」にして「レーベル・マスター歴約半年」の真心ブラザーズですけども。レーベルを立ち上げて、目に見えて「変わったなあ」と感じるところは?

桜井秀俊(Vo・G) まあ、人が違うので。

YO-KING(Vo・G) そうね。乃木坂(前所属レーベル=キューンミュージック)に行かなくなった(笑)。

桜井 新しいところでどうとかじゃなくて、「前のところに行かなくなった」っていう。

YO-KING そう、それが新鮮で。ずいぶん長いこと、あちらにお世話になってたので。

――でも、これまでほとんどセルフ・プロデュースでやってこられて、制作的な面で言えば、おふたりのジャッジがほぼそのまま作品なりライヴなりにつながっていく形だったわけじゃないですか。あえて新レーベルを設立したのは、そこに新しい何かを求めたからだろうなと思っていたんですけども。

YO-KING まあね……なんかカッコいいからね。そういうもんでしょ? ロックって。賃貸じゃなく、家を買う、みたいな……ちょっと違うか(笑)。でも、「自由」っていうのはひとつ、音楽やる上で大事なところですよ。今までも自由だったけど、より自由っていうものを押し出すには、「自分のレーベルです」っていうのがあったほうがいいよね。そういう意味では……イメージ戦略ですよ。

――はははは。

YO-KING 確かにおっしゃった通り、現場の制作に関してはあんまり変わることはないんだけども。ただ、担当の方がいろいろ代わることによって、「初めまして」から何度も顔を合わしていくうちに、だんだんいろんな意見を言ってくれるようになって。それで、初めてのマスタリング(・エンジニア)の人にお願いしたりとか。そういう刺激はありますね。

桜井 今回、レコーディング・エンジニアも新しい人にお願いして。MB'sっていうライヴバンドがいたりとか、レコーディング・エンジニアも遠山(勉)くんっていう人がもう10何年もずっと一緒にやってくれていて、全然素晴らしいんですけど……「ちょっと新しいことをやりたいな」っていう時に、違う人とやると角が立つんですよね。でも、新しくレーベル立ち上げて「心機一転!」的なものがあると、非常に言いやすいというか(笑)。あとはやっぱり、レコード会社の制作担当の方から「こうしたらどうかな」みたいなことは言ってほしい、っていうのもあるんですよ、アイデアがあれば。そうなった時に、新しくお世話になってる徳間の人たちは、すごくいろいろ言ってくれるんですよね。「こういうのが聴きたい」とか「こういうふうなプロモーションが面白いと思う」みたいな。それが非常に新鮮で。ずっと一緒にいる人たちではない、「よそから見てた人たちの見え方」が非常にありがたいというか。

――なるほどね。人が作っていくものだから、人が代われば空気感も変わるし。

YO-KING そうそう。いいアルバムを作るのも大事なんだけども、その日一日のレコーディングが楽しい、っていうほうが大事なわけよ。だとしたら、そこにいる人がすごく大事になってくるわけ。やっぱり、楽しい人と一緒にいたいですよ。もちろん、今までも楽しい人はいたんだけど、「新しい楽しい人」とやっていくと、何か絶対音には入ってくるからね。で、なるべく人の意見を聞くほうなので。どんどん自分の思ってたのと違っていくのが楽しいっていうか。すべてがそうだね、ディレクターも、レコード会社も、マネジメントも、バンド・メンバーも。だから、真心ってたまたまふたりが正式メンバーなんだけど、ふわーっとした集合体で、看板がふたりっていう。決して、どっちかが強力で「こっち行くぞ!」っていう方向にみんながぞろぞろ行くっていう感じではないんですよ。で、なんでそういうことができるかって言うと、どんな人とやっても、自分の味を出せる、っていう自信があるからなんですよ。強烈なリーダーシップをとる人って、逆に自信がない人のほうが多いからね。

――だから、レーベルっていうよりは、もう一回「真心というコミュニティ」を作ろうとした、っていうほうが近いのかもしれないですね。

桜井 それはそうかもしれない。別チームを作ったっていう。

――その新レーベル第1弾となる今回の『Do Sing』はもう、大事なものしか鳴ってない、みたいなアルバムになってますよね。

YO-KING やっぱり、だんだん引き算の発想になっていくよね。間奏なんだけど、わざわざ誰かがソロとんなくてもいいよ、みたいな(笑)。迷ったら「引く」ほうを取るかもしれないですね、「足す」よりはね。楽器と楽器の間を感じたいというか――“あいだにダイア”だけに(笑)。ジャンって弾いた後の余韻というか。やっぱり、余韻って空間を感じられるものだし。そういうものを、僕の耳は欲してるんですよ。

――その「余韻を楽しむ」のも、さっきの「いろんな人の意見を聞く」のと同じで、自分が鳴らしてるものに対しての自信が持てるかどうかが大きいと思うんですよね。

YO-KING そうそう。「自信がない」っていう状況が俺はよくわかんないから、人のプロデュースとかはあんまりできないかもしれない。「『自信ない』とか言ってるけど演技でしょ? 自信ないフリしてるだけで本当はあるよね?」みたいに思うんだけど(笑)、話を聞くと「本当に自信ないんだ!」っていう人が多いよね、ミュージシャンって。ただ、相対的に見ると、自分は希少種なんだなとは思いますね。

――確かに。希少種じゃなかったら、この「余韻を楽しむ」っていう方法論を実践する人がもっとたくさんいるはずなので。

YO-KING ははははは。まあね。ただ、たぶん俺がいちばん楽しいと思う、ミュージシャンの中で。俺がいちばん楽しんでると思う。……っていうやつが、たくさんいるようになってほしい。「いやいや、俺のほうがすげえ楽しい!」っていうような業界になってくれたら、さらにいいと思う。「俺がいちばん楽しいよ」っていうやつが100人ぐらいいるほうがいいもん。俺はもう、ほんとに毎日楽しいもんね。

一日の作業が終わって、僕らが帰った後、彼(エンジニア)が後片付けしながらマネージャーさんに「こんなに楽しいことやってていいんでしょうか?」と(笑)(桜井)

――でも、実際は「楽しいことを1味わうために、99苦労する」みたいな感じの人が多い気がするんですけど?

桜井 でも、それは「楽しいこと」の準備であって、「楽しいこと」のひとつなんじゃないですか。それを「努力」って思っちゃうということは……そのためにやってることって、「楽しいこと」じゃない気がする。

YO-KING 人間は不完全だから、思い込んだやつが勝ちなのよ。音楽っていうものは、僕にとって遊びであり、仕事でもあるんだけど、僕に関しては、曲を作るのも楽しいし、ライヴももちろん楽しいし。だから、そんなに苦しいことがないっていう。旅も好きだし。音楽を聴くのも好きだしね。だから……苦労とかは、しないほうがいいよね、なるべく。しないで済むのならね。「苦労は買ってでもしろ」と言うならね、売りたいです(笑)。

桜井 「僕の分があるんで!」ってね。

――それは俺もそうだと思う。

YO-KING 「どうぞどうぞ!」みたいなね(笑)。苦労しなきゃ幸せになれない、って思ってる人が多いから。そうじゃないよね。そこに気づくかどうかが結構大事だと思うんだよね。

――“I'M SO GREAT!”もまさにそんな感じですよね。《押しつけられたら逃げてやれ》って。

YO-KING そうそう。どんどん逃げたほうがいいっすよ。逃げれることなら。「逃げれないこと」は、やっぱりやんなきゃいけないことだから。そこを「楽しい!」と思って頑張るか、「嫌だな嫌だな」と思って頑張るか。受験勉強とか俺も嫌だったけど、「これは楽しいことなんだ!」って思い込んだもんね。そっちに持っていくセルフ・プロデュース能力には長けてたよ。やんなきゃいけないんだってなったら、そういうふうに「楽しいことなんだ」って思うようにしたほうが得だよね。

――今回の『Do Sing』は“splash”のポップなソウル感あり、ブルースあり、ロックンロールあり、曲のバリエーションは豊かだし、そういう意味では前作『Keep on traveling』のシンプルさともまた違うんですよね。ハジけてるんだけどシンプルというか。

桜井 それはたぶん、全部の楽曲が、ブルースやロックンロールを幹として、ちょっと枝葉のほうに行ったり、幹に近かったりとか、ひとつの流れの中にある音楽だから。『俺たちは真心だ!』の時にやった、いきなり打ち込みのテクノみたいなことをやると、そこから外れちゃうんで(笑)。今回は全部バンドでできるというか、自分たちの流れの中にあるものをやっているので。やりすぎた感もなく、かといって全曲みんな、楽器陣もエンジニア陣も活き活きとやってくれてるんで。ハジけた感じが録れてると思いますよ。自分たちもそうだけど、周りのレコーディング・スタッフやミュージシャンが、すごく楽しんで真心の音楽をやってくれてる、っていう状況が大事で。特に、いちばん楽しんでたのは、初めて一緒にやった西川(陽介)くんっていうレコーディング・エンジニアで――基本自由にやってもらって、そのアイデアがすごく面白かったりして。で、一日の作業が終わって、僕らが帰った後、彼が後片付けしながらマネージャーさんに「こんなに楽しいことやってていいんでしょうか?」と(笑)。そういう話を次の日に聞いたりするとね……そういうのって、音に出るんですよね。

――コミュニティというか、ある種の楽園ですよね。

桜井 そうですね。僕らが彼らと初めてやって楽しいのと同じように、彼らも、テレビで観たり、CDで聴いたり、カラオケで歌ったことがある真心と仕事をするのが、たぶん初めてで楽しいんでしょうね。最初は俺も、もうちょっとルーツ・ミュージック寄りというか、明るいルースターズみたいなものができたらいいなと思ってたんですけど。もっとポップな曲もたくさん入って。インディーズでやってたバンドが、メジャー・デビュー盤にしてちょっとポップになったみたいな(笑)、そういう感じの1stアルバムっぽさが出てて、おもろいなあと。

YO-KING やっぱり、現役感があるよね。ルーツ・ミュージックはやりたいけど、そうさせてくれない状況が逆にありがたいっちゅうか。『おはスタ』のタイアップ(“あいだにダイア”)とか、こういう話が来ることによって、「まだまだそっちじゃないぞ、あんたたち」って言ってくれてるありがたさというか……こうしてメジャーでやってて、仕事としてもちゃんとやってて、遊びでもあるし。で、こういうオファーがもらえるっていう。そのオファーに対して、自分らが遊べるだけの技術と能力があるっていう。そういうのがね、「思ってたのと違うふうになっていく楽しさ」だよね。そこで「いや、俺はルーツ・ミュージックで今回はやるんだ」って言っちゃったら、この面白さはないんだよね。

――“グライダー”“消えない絵”“splash”って、冒頭からこのポップ感ですからね。

桜井 ね? 元気ですよね(笑)。

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