アーティスト

    デビュー・アルバム『オラキュラー・スペクタキュラー』(2008)で2000年代オルタナ・ブームの火を付け、インディ・ポップ、エレクトロ、サイケデリックといった箱庭のアート・フォームを一気にメジャー化する立役者となったMGMT。彼らは直近5年のUSオルタナティヴ・ロックを代表するアイコンであり、同時にそんな時代のアイコンたる自分たち自身に戸惑い、葛藤を続けてきたインディ・ピュアイストでもあった。

    2010年リリースのセカンド・アルバム『コングラチュレイションズ』がまさに「脱アイコン」を目指したダークでディープな一作となったのも、MGMTらしい反動だったとも言えるだろう。そんなMGMTが初めて自らの名前を冠したのが最新作の『MGMT』だ。テーマは「宇宙」だと彼らが語る本作は徹底してサイケデリックかつカオティックな作品だが、同時にいまだかつてない解放感を感じられる作品でもある。内に籠もる混迷としてのカオスではなく、外にエネルギーを放出するポジティヴなカオスに満ちたアルバムなのだ。

    成功と反動、2000年代USオルタナの光と影を行き来してきたMGMTがついに手にした確かなアイデンティティ、そして何よりも自由。『MGMT』とはそういうアルバムだ。来年1月の待望の来日ツアーを前に、ベン・ゴールドワッサーに『MGMT』を改めて全曲解説してもらった。

    MGMT / エムジーエムティー

    アンドリュー・ヴァンウィンガーデン(Vo,G)、ベン・ゴールドワッサー(Key,Programming)、ジェームス・リチャードソン(G)、マット・アスティ(B)、ウィル・バーマン(Dr)
    NY・ブルックリンを拠点に活動を続けるMGMTはアンドリュー・ヴァンウィンガーデンとベン・ゴールドワッサーの2人を中心に結成。2008年のデビュー・アルバム『オラキュラー・スペクタキュラー』とヒット・アンセム“Kids”によって一気にブレイクし、2000年代USオルタナティヴを象徴するアイコンとなった。その後サーフィンと自身の名声をテーマにしたセカンド・アルバム『コングラチュレイションズ』(2010)を経て、初のセルフ・タイトル作となる最新アルバム『MGMT』を今年9月にリリース。2014年1月には来日ツアーを控えている。

    リリース情報

    MGMT『MGMT』
    SICP-3884 / 9月18日発売

    1. Alien Days
    2. Cool Song No.2
    3. Mystery Disease
    4. Introspection
    5. Your Life Is a Lie
    6. A Good Sadness
    7. Astro-Mancy
    8. I Love You Too, Death
    9. Plenty Of Girls In the Sea
    10.An Orphan Of Fortune
    11.A GOOD Sadness (μ-Ziq Remix)

    1. Alien Days

    ――1曲目は“Alien Days”。この曲は子供の歌声で幕を開けます。ファンタジーのイントロ、不思議の世界に迷い込んでいく導入のようにも聞けるナンバーです。
    「この曲は、アルバムを作るにあたって最初に書き始めた曲。だからある意味で前の2枚のアルバムと新作とを繋ぐ橋みたいなものでもあって、しかも書き方も前作の曲と似てた。とにかくこれは、今回作り始めて最初に自分達が面白いと思えた曲なんだよね。最初は普通にアンドリューの声だけのヴァージョンを録ったんだけど、そのあとアイデアを思いついて、何か別の声がアンドリューの声に変わっていく感じにしたら面白いんじゃないかと思って、結局デイヴ・フリッドマンの友達の息子がかなり歌がうまいらしいってことが分かって、それでお願いすることになった。その子にとってはレコーディング・スタジオに入るのが初めての体験だったらしくて、すごく楽しそうだった。僕自身が初めてスタジオ入った時も相当興奮したし、同じだなあと思ったよ」

    2. Cool Song No.2

    ――この曲からアルバムは一気にシンフォニックな広がりを持っていきますよね。“Cool Song No.2”というタイトルはどこから? No.1があったんですか?
    「元々はただの仮タイトルだったんだ。曲作りの途中で、いっぱいアイデアが出てきて未完成のまま使ってない断片も全部その辺に転がってて。で、そういうスケッチ的なものに取りあえず名前を付けておこうってことで、確かデイヴ・フリッドマンが言い出したと思うんだけど、『じゃあこれが“Cool Song No.1”で、これは“Cool Song No.2”で』という感じで付けていって、たぶん“Cool Song No.3”もあったと思う。それで結局そのまま変えなかったというね。ボブ・ディランとかの曲にありそうな感じがして、すごく気に入ってたから。この曲は即興で鳴らしながら作った音楽から生まれた曲のひとつで、色々いじり回して音を鳴らして録音した部分を元にして、そこにまた足したり、ある部分をループにしたり、そうするとある時点でそれが実際にどうやって曲になるのかが見えてくるという感じで、かなりゆっくり進化していった曲だった」

    3. Mystery Disease

    ――ダークなスペース・サイケという感じのナンバーで、「Floating impatience Snuffs my limited sapience Black smoke as soon as the pressure's released Deep space sighs, the Mystery Disease」といった歌詞といい、宇宙を彷徨う、言うなればデヴィッド・ボウイの“スペース・オディティ”的な世界を彷彿させるナンバーですが。
    「アンドリューがだいぶ前から持ってたタイトルとメロディのアイデアがあって、それが元になってるんだけど、作り方としてはオムニコードっていう楽器を使ってて、ちなみにこの楽器はオモチャみたいに小さくてボタンを押してコードを鳴らしたり平らなメタル部分に指をスライドさせて音を鳴らしたりするやつなんだけど、曲の大部分は地べたに座ってオムニコードを使って作ったんだ」
    ――この曲も結構音を鳴らしてるうちにできてきたんですか?
    「そうだね。あと確かこの曲はサンプルを使ってる唯一の曲だったはず。スタジオの2階にデイヴのレコードがいっぱいあったから、ジャケットがかっこいいやつを選んで、適当なところに針を落としてレコードをかけながら曲のキーと合う完璧なサンプルを探したんだ」

    4. Introspection

    ――“Introspection”はフェイン・ジェイドのカヴァー曲ですよね。アルバムの中盤、アルバムの流れを作る上でも重要な位置にカヴァー曲を持ってきたのはなぜですか?
    「まあ座りが良かったというか、というのもこのアルバムの曲の多くは伝統的なポップ・ソングの構造と戯れているようなところがあるから、実際にああいうものすごく明快なサビがある曲をカヴァーするのが楽しかったんだよね。あと、ある意味ここで一旦前半でやっていたことを終わらせて、後半にいい感じで繋げるというような役目もあると思う。後半はもっとノイジーになってエレクトロニック色が強くなるからさ」
    ――この曲をカヴァーしようと思ったのはなぜ?
    「これは元々アンドリューの友達がアンドリューのために作ったミックスCDに入ってた曲で、たとえばスタジオで煮詰まった時なんかに、気晴らしに演奏してたんだよね。でも今回作った曲とかなり相性がよくて歌詞も他の曲とマッチしてたから入れることにしたんだ」

    5. Your Life Is a Lie

    ――続く“Your Life Is A Lie”。2分6秒と極端に短いナンバーです。カオティックなナンバーが多い本作の中でも際立ってシンプルで、かつポップなナンバーですよね。本曲の意図は? また、そのシンプルでポップなナンバーに「Your Life Is A Lie」という皮肉を込めたのはなぜですか?
    「アンドリューと外でキャンプファイヤーをやってた時に、別に曲を作ろうとするわけでは全然なく、ただ何となくアンドリューがギターを鳴らしながらYour life is a lie~って歌詞を適当にでっち上げながら歌い出したんだ。ホント何気ない感じでね。で、僕はレコーダーを取ってきてちょっと録ってみた。それで彼に『これって実はいい曲だと思う』と言って、急いで中に入って歌詞を忘れないうちに録音したんだ」
    ――「Your Life Is A Lie」というフレーズが何の前触れもなく飛び出してきたんですか?
    「うん(笑)。どっから来たのかは僕も知らない。とにかくすごいおかしい曲だと思ったんだよね。初めて聴いた人は結構ダークな内容の曲だと思うみたいなんだけど、僕達にとってはすごい笑えるというか……何だろう、誰かに対する宣告としてすごくおかしいと思う」

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