殻を破り新たな地平へ! 焚吐が鳴らす初のラブソング“ふたりの秒針”に迫る
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この4月からTVアニメ『名探偵コナン』のエンディングテーマとして流れている“ふたりの秒針”。これはデビューシングル『オールカテゴライズ』から半年を待たずしての焚吐のセカンドシングルだが、持ち前の印象的なメロディと澄んだ緊張感のあるヴォーカルを生かしながら、初めて書いたラブソングだという。自身と対峙する鋭い内省を歌ってきた焚吐が、ラブソングという新たな地平に立つことで自身の殻を破り、次のフェイズへと飛び立とうとしている。囁くような声と抑制の効いたアティテュードでクールに夢を語る焚吐19歳。彼の秒針は動き出したばかりだ。
殻を破るというか、いい意味で自分を壊していくという気持ちで書きました。いい意味で飛躍したいと思って
──焚吐さんのイメージを変える曲ですが、これまで書きためていたものではなく『名探偵コナン』のエンディングテーマ曲として書いたものだそうですね。
「タイアップのお話があってから作り始めた曲で。まだ選考段階ということで、エントリーする曲として“ふたりの秒針”ができて。最終的にこの曲を選んでいただきました」
──お話があった時に、何かアイディアはあったんですか?
「2作目ということで、“オールカテゴライズ”に準ずるものということも考えたんですけど、最終的には、今まで自分が苦手としてきたラブソング、ミディアムバラードという。意欲作にしたいなということで、今回の曲にしました」
──『名探偵コナン』の物語や作品を思い浮かべながら書いたり?
「曲を書くにあたって、過去の作品を見たり、過去のエンディングを歌った方の曲を参考にしながら」
──これまでの焚吐さんの作品のテーマである、自分の内面性や自分との戦い、シニカルな距離感といったものとは違うことがテーマで、伝えようとする要素が大きい曲だと思います。どんな風にできたんでしょう。
「デモ段階でまずメロディができて。そこに自分が伝えたいテーマを落とし込んでいって。アレンジャーの方が出してくれたアレンジ案だとかをキャッチボールしながら作っていったので、良い作品になったのかなと思います」
──ストリングスシンセが入ってますね。
「あれはアレンジャーの方が。前作がロック系のアレンジャーさんだったので、今回はEDM系の方にアレンジをお願いして。違った焚吐を見せられたんじゃないかなと思います」
──前作との違いを意識しての曲であり、アレンジであると。
「殻を破るというか、いい意味で自分を壊していくという気持ちで書きました。自分が今まで第三者として音楽を受け取った中で、セカンドシングルで、いい意味で飛躍している方が多くて。自分もそうなりたいと思って作りました」
──推敲に推敲を重ねて?
「先ほども言いましたけど、アレンジャーの方とのキャッチボールだとか。自分の中で納得いかずに、全部書き換えてメロディごと変えるとかそういう作業もたくさんあったので」
──じゃあ、当初とは形が変わっていったんでしょうか?
「大枠は当初のものだと思うんですけど、書いていくうちに、より良いものが見えてきて、かなり磨かれた作品になったのかなと思います」
──制作中にアレンジャーさんと打ち合わせながら、いつも作るんですか?
「これが初めてですかね、ここまで踏み込んで作品を作ったのは。自分が聴いている音楽だけで考えると、偏ってしまうところもあるのですが、アレンジャーの方はEDMが得意とか自分と違う分野で活躍していらっしゃる方なので、自分にはないテイストを引き出していただいたなという印象です」
愛だけで全てが解決できるわけじゃなくて。愛にも欠けた部分があるからこそ、自分たちが入り込む余地があるというか
──歌詞は綺麗なラブソングですが、ラブソングを書くことは焚吐さんにとってどのようなものでした?
「新しい挑戦ですね。今までは、友人関係だとか、広い枠組みの曲だったんですけど、ラブソングとなると1対1なので、かなり踏み込んだ歌詞にしました」
──この曲の、どういうところが気に入っていますか?
「サビ前の《愛というパーツひとつあるだけで》というのが、この曲の主題にもなってるんですけど、愛だけで全てが解決できるわけじゃなくて、愛にも欠けた部分があるからこそ、自分たちが入り込む余地があるというか」
──愛、恋というストレートは言葉を使っていますが、自分でチャレンジングな感じとかはありましたか?
「そうですね、“オールカテゴライズ”で自分を好きになってくださった方にはどう映るのかなというのは心配だったんですけど、チャレンジしてみたいという気持ちが強かったので、今回は素直に落とし込みました」
──雑な言い方ですけど、ベタすぎないかという不安感とかありませんでしたか?
「そうですね、“ふたりの秒針”で、王道のコード進行だとか、メロディだとか歌詞にしたので、それを補完するかたちで、“てっぺん底辺”を入れたので、バランスは取れたんじゃないかなと思います」
──歌い方も伸びやかで、スケール感が出ていますね。
「前作で、自分の声が好きという声をたくさん頂いて、それを100%活かせるようなメロディ作りだとか、キーだとかにしたので。そうですね、自分の声が活かせるようにこだわりました」
──自分が好きな自分の声がここにある、といった感じでしょうか?
「そうですね、今まで作ってきた中で一番自分の声が活かせた曲じゃないかと思います」
──声に対するコンプレックスがあったんですか?
「他の歌手の方と比べると自分の声の没個性というのをすごく感じていたんですけど、“オールカテゴライズ”とか“子捨て山”を聴いてくださった方からは、個性的だとか心地好いという意見をたくさん頂いたので、これからは声も磨いていこうと思います」
──焚吐さんが個性的と思うシンガーはどういう方ですか?
「最近ですと、ポルノグラフィティさんとか、節回しだとか個性的じゃないですか。そういったアーティストの方をたくさん聴いてきたので、自分の声は個性的じゃないと思っていました」
──意外ですね、歌う人が自分の声にコンプレックスあるというのは。ないから歌うことを選んだのだろうと思ってしまいますが。
「自分の場合は伝えたいことが先行していたので、声とかメロディとかは、歌詞に準ずるものだと思っていたので、そこまでこだわりはなかったですね」
──歌は自分が伝えたいことを伝えるためのツールなんですか?
「そうですね」
歌を通してしか伝えられないこともたくさんあると思うので。“ふたりの秒針”はそういう面ですごく踏み込んだ作品になったかなと思います
──自分で歌わず楽曲提供しようと思ったことは?
「将来的にはしたいと思うんですけど、現段階では自分の声で歌って自分でステージに立って、お客さんとコミュニケーションとっていきたいという気持ちです」
──歌を通じてのコミュニーケーション?
「そうですね。普段の生活でできていないことが歌で試せることだと思うので、自分でコミュニケーションをとっていくことを念頭に頑張りたいと思います」
──普段できていないことというと?
「交友関係だとか、普段自分が思っていることをうまく伝えられなかったことが多かったので、これからそういうことを解消していこうという気持ちです」
──歌で自分のディスコミュニケーションな部分を補填していく?
「そうですね、歌を通してしか伝えられないこともたくさんあると思うので。“ふたりの秒針”はそういう面で考えると、すごく踏み込んだ作品になったかなと思います」
──この作品で得たことはありますか?
「ありますね。自分らしさということに固執しない方がいいなと思いました。“オールカテゴライズ”で評価を頂いたのはニヒリズムとか、一歩引いた視点だと思うんですけど、“ふたりの秒針”であえて踏み込んだことで、見えたところもあるので」
──『名探偵コナン』のテーマ曲はB'zや倉木麻衣といった諸先輩たちが手がけていますね。そういう方々の後に続くのはどういう気分ですか?
「恐れ多いなという気持ちもあるんですけど、そのマインドを受け継ぎながら、自分にしかできないことを視聴者に刺していける歌になるといいなと思います。すごく有名なアニメなので、たくさんの人に聴いていただけるなという気持ちです」
──諸先輩に続く責任とか重荷を感じたり、それによって自分を鼓舞する気持ちにもなりますか?
「そうですね、親しみのある作品ですので気合も入りましたね。チャンスはいつ来るかわからないので、その時に100%出さなければと」
──『ふたりの秒針』はジャケット写真やPVの衣装も従来とイメージが違いますね。
「曲がかなり挑戦的なので、ヴィジュアル面でもそういうのが必要かなと思います」
──こんな風にしたいというのは焚吐さんのアイデアなんですか?
「もともと『名探偵コナン』のアニメを見て、自分の楽曲のデモを作ってみて、その段階でスチームパンクの世界がこのPVに世界観が合うのかなと思って、スタッフの方に提案しました」
──スチームパンクという言葉を知ったきっかけはなんだったんですか?
「スチームパンクという言葉は知らずに見てきたジブリ映画とか。言葉を知ったきっかけは友達の影響ですかね。大学に入って、スチームパンクのファンが多くて。その友達の影響で自分も興味を持って」
──コミックの『鋼の錬金術師』とかも?
「その辺ですね」
──SFとかお好きなんですか。プロフィールには星新一が好きと。
「短編が好きですね。一人の作家につき1作品を読むようにしていて。長いものになると手は出し辛いですね」
──最近お気に入りは?
「最近は江戸川乱歩さん」
──『怪人二十面相』とか? まさに和製スチームパンクですね。
「というよりも謎を解くところが好きですね」
──翻訳物は?
「最近読んだのはポール・オースターの『幽霊たち』。又吉(直樹)さんが推薦図書で出していて。洋物はそれで久しぶりに読みましたね」