焚吐 次世代作家陣との交わりが生んだ最新作『トーキョーカオス e.p.』を語る
デビューシングル『オールカテゴライズ』から間もなく1年になる焚吐の初EP『トーキョーカオスe.p.』は、カオスを感じる街だという池袋で歌った経験と焚吐の内面に渦巻くカオスを詰め込んだ作品だ。4曲中2曲はボカロP・Neruの作。それを焚吐が歌うことで互いの代弁者となるという、カオティックな構図を描いてもいる。内なるカオスを吐き出すことで、リアルな焚吐を見せていく。そんな心意気も感じられる作品でもある。人との距離を探りコミュニケーションを切望するからこそ感じてしまう孤独感、それゆえに混沌とする感情。その発端がどこにあったのか、彼は率直に語ってくれた。
路上ライブは初めての経験で、最初は勝手がわからなかった
――デビューシングル『オールカテゴライズ』と2ndシングル『ふたりの秒針』は2曲ずつでしたが、新作『トーキョーカオスe.p.』は初の4曲入りですね。
「はい、自分の中の選りすぐりの4曲です」
――4曲ともカラーが違っていて聴き応えがありますが、リードトラック“僕は君のアジテーターじゃない”と4曲目“人生は名状し難い”は、ボカロPのNeruさんの作。こういう構成にした理由は?
「はい、『トーキョーカオス』というタイトルにも由来しているんです。これまでのシングルはそれぞれアプローチがひとつだったんですけど、今回はさまざまなクリエーターの方の意思とかアイデアを取り込んで、たくさんの面を見せられたらなと思って。“クライマックス”はササノマリイさん、“四捨五入”はカラスヤサボウさんにアレンジをお願いして」
――Neruさんは、これまでのシングルでアレンジをやっていますね。その流れで今回も楽曲もお願いすることに?
「そうです。先に“人生は名状し難い”を書いていただいて、もう1曲お願いしたいと思っていたんですけど、今回の『トーキョーカオス』に合致しているなということで、“僕は君のアジテーターじゃない”を入れました」
――焚吐さんが東京でカオスと思うのはどんな風景ですか。
「池袋がカオスのイメージが強いですね。池袋はサブカルチャーが盛んな街ですし。僕、すごい歩道橋が好きなんですけど、歩道橋から眺めているとなんでここにホテルがあって、なんでここに電車が走っているんだろう、みたいな。いろんなものがひしめき合って混在してる面が強いので。そこが池袋の特徴だと思います」
――『人生は名状し難い』は夏に池袋P'PARCOで、1日3公演を20日間、計60公演の弾き語りライブで限定販売したシングルですね。
「はい。おかげさまで完売でした。路上ライブは初めての経験だったので、最初は勝手がわからなくて。でもライブハウスとは違う見せ方があるのがわかりました。初見でも耳を傾けてくださる方がいるというのは嬉しかったです」
――“人生は名状し難い”はNeruさんには珍しいシンガーソングライター系の曲ですけど、“僕は君のアジテーターじゃない”は畳み掛けるような曲で、Neruさん本領発揮という感じですね。
「やはり“人生は名状し難い”は、僕の半生をイメージして書いてくださったから、Neruさんの違う一面が見えた楽曲だなと思っていて。どんな辛いことがあっても《人生は名状し難い》というワンフレーズに帰結するというか。それを受けて“僕は君のアジテーターじゃない”は突き放すような、かなり毒気のある曲になったんじゃないかなと思います」
この作品は何も縛られずに作ったらどうなるだろうという試みで生まれました
――“僕は君のアジテーターじゃない”は、こんな曲をといったお願いもしたんですか?
「アップテンポでということだけお願いして、あとは好きに作っていただきました。“ふたりの秒針”を打ち破るというかアグレッシブな楽曲に仕上がって驚きました。自分が大きな声で言えないことをNeruさんが代弁してくださったなあと思っていて。これをいただいたことで、自分の間口が広がったのかなと思います」
――音も言葉も詰め込みまくった曲だから歌うのも大変じゃないかと思うんですけど、レコーディングはどうでした?
「メトロノームの上限が250ぐらいじゃないですか。この曲は240ぐらいあって。テンポが速すぎて、歌うのが本当にひと苦労だったんですけど、Neruさんがこだわっている作風というのが、歌詞を見ただけでわかって。音符と音符の間に文字を詰め込んで疾走感を生むという作風に最近は統一されてるので、それを100%活かせるように歌いました」
――「アジテーター」という言葉は、普通なら「扇動者」という意味ですけど、この曲ではちょっと違いますよね。どう解釈されてます?
「この曲の場合、Neruさんが進んでアジテーターになったわけではないし、自分が不本意なところで踊らされているみたいな感覚があって、作ったんじゃないかと思うんですよね。Neruさんぐらいの方になるとファンがとても多いですし、自分が偶像化されて、それでみんな踊り狂ってるみたいな。扇動者というと能動的に誰かを焚きつけているようなイメージですけど、ここでは自分と違う、偶像化された存在。それが主題なんじゃないですか」
――意図せず担ぎ上げられちゃってる状態でしょうか?
「僕もリスナーとして思ったことなんですけど、Neruさんの楽曲って青少年の葛藤みたいなものが多くて。心の代弁者みたいな。それでNeruさんと心理的距離が近くなっていると錯覚するファンの方がいるんだと思うんですよね」
――そういう感覚は焚吐さんもありますか。
「“ふたりの秒針”はアニメ『名探偵コナン』とのタイアップで、初めて書いたラブソングなんですけど、『焚吐さんは女性の気持ちをわかってる』みたいな反応もあって。もちろん曲の解釈はひとそれぞれなんですけど、でも僕はそんなにいい人じゃないよっていう」
――難しいところですね、歌として伝えたいことはあるけど、それを過剰に受け取られても困る。
「そうなんですよね。それはそれで嬉しいんですけど、どんどん過剰になっていて、焚吐という木偶人形みたいなものが作られていったら嫌ですね」
――じゃあ、このEPは“ふたりの秒針”の反動でしょうか。
「かなり反動も出ていると思います。『ふたりの秒針』はカップリングでアングラな“てっぺん底辺”を入れたんですけど、それだけじゃ物足りなかったんでしょうね。だからこの作品は何も縛られずに作ったらどうなるだろうという試みで生まれました。結果的に“クライマックス”は『CDTV』のタイアップをいただきました」