THE BACK HORN、宇多田ヒカルとの共同プロデュース作『あなたが待ってる』を語る!(2)

THE BACK HORN

せっかくだから、歌録りの時に完全にディレクションしてもらおうと思って(山田将司)

――将司くんは……そうだ、今回のレコーディングの話の前に、10年前にゲストボーカルで行った時はどんな感じだったんですか?

山田 えーとー…………。

――あんまり憶えてない?

山田 いや、憶えてます。すーげー緊張してたから。とにかく、自分のキーの……若い頃だから今より高い声が出てたんだけど、Bまでしか出なかったんですね。だけど、いざコーラスのメロディを辿ってみたら、Cまで行くメロディで。でも歌ってみたら、女性の声につられてそのCが出たんですよね、勝手に。「あれ? 俺、Cなんか出したの初めてなんだけど」って思って。その時ディレクターの方が「ヒカルちゃんと声の相性がいいね」って言ってくれて。「いつかまた機会があったら」みたいな感じの別れ方をした記憶はあります。

――今回は?

山田 緊張はしなかったですね、そこまで(笑)。今回思ったのが、歌詞の視点が……その主人公がどういう人間であるのかとかを、堂々と出してきたっていう感じがして。栄純の仮の歌詞の時は、もっと俯瞰の視点があったんだけど、もっと……「だって会いたいんだからしょうがないじゃん」みたいな、そういう視点が歌詞に加わったことで、詞単体の説得力が上がったな、と思って。Bメロの《勝手なことを言わせてくれ あなたにだけ/「そばにいたいずっと」》っていうところも、どうしようもない感情を書いていて……そのうしろでマツのドラムに対してのディレクションをヒカルちゃんがした時は、「そこはもっと暴れて、やりたいようにやってみてよ」みたいな。
せっかくだから、歌録りの時に完全にディレクションしてもらおうと思って。「ちょっとやってもらってもいいですか?」って言ったら「えー、私やったことない」って。俺もその、ボーカリストに歌録りを聴かれてるっていう経験自体が初めてで。なんかおもしろいじゃないですか、ボーカリストがボーカリストをディレクションするとどうなるのかな、って。最初、2テイクぐらい自分が思ったとおりに歌ったあとに、「デモの感じぐらいでもっとラフに、力入れて歌うのも聴いてみたいな」っていうアイディアをもらったりして。それで、この歌詞の世界観の無骨な感じと、自分の歌の力の入れ方の関係性が見えたっていうか。
最初に自分ひとりだけで歌った時は、もっと乗せに行ってたっていうか。この曲調、これまでTHE BACK HORNになかったから、はたしてこの曲を歌う時の俺の武器は何なんだ?ってけっこう俺も悩んでて。たぶんそれで乗せに行ってたら「いや、もっとそのままの感じで歌ってみよう」っていうアイディアをくれたりして。歌い手として、自分だけじゃ気づかないところはありましたね。

――考えたら、宇多田ヒカルがどういうアーティストかはわかっていても、人をプロデュースするとどうなるのかっていうのは未知数でしたもんね。しかも『Fantome』って、サウンド的にも前作までとかなり変化した作品だったし。

菅波 うん……まあでも、前からトラックとか全部自分で作ってる人じゃないですか? だから、作家としてすげえ音を作ってきてる人だっていうリスペクトはあったから、そういう意味ではあまり心配はなかったし、プロデューサーとしてもかなりの場数を……自分でハードルを設定してそれを超えていく場数を、相当踏んできている感じはわかったから。
だってもう、それこそ前の作風から『Fantome』の作風に変わることが、かなりチャレンジングだったと思うし。だけど、すげえチャレンジしたのに、それが聴き手の想像を超えて、普遍的な名作になるわけじゃないですか。だから、全然心配はなかったですね。

宇多田さんがなんで受けてくれたのかっていうのは、訊かなくてよかったなって思いますね(松田)

――宇多田さんも、バンドと一緒に共同プロデュースなんて、長いキャリアでも初めてですよね。なぜそれをやろうと思ったんでしょうね。THE BACK HORNの、あるいはこの曲の何がピンときたんでしょうね……って、訊かれても困るだろうけど。

菅波 (笑)。訊かれても困る。

松田 それはわかんないすね。それ、最後に訊こうと思ったんですけど、そのままスルーッと別れちゃって。

菅波・山田・岡峰 はははは!

松田 PV撮って、そのままスッて。「これだけは絶対最後に訊こう」と思ってたんすけど、訊けないまま。でも、それ訊いたらこうなんか、すべてね、浦島太郎じゃないですけど。

――(笑)。

松田 鶴の恩返しの機織りじゃないですけど、訊いちゃいけないものを訊くような感じも、ちょっとして。最後に残ってしばらく雑談をしてた時間があったんすけど、訊けずに。
でも、何かピンときたものが、宇多田さんの中であったのか、一緒に音楽を作る楽しみをTHE BACK HORNの送った楽曲に見いだしてくれたのか……やっぱり楽曲を聴いてイメージが湧かなかったら、一緒にやろうと思ってくれたとしても、「どうやろうか……」っていうところで止まって、具体的にならなかったと思うんで。何か感じてくれたんじゃないかな、っていうとこですね。
あと、10年前に5人でごはんを食べに行った時も……その時もけっこう、たとえばキックのEQ(イコライザー)の話とか、スネアのサンプリングの音色の話とか、すごいつっこんだ話までしたんですよ。その時に「じゃあ栄純とふたりで曲を作ってみたらいいんじゃないの?」みたいな話もしてたんですね。そういう縁というか……まあ約束したわけじゃないんですけど、もしかしたらご本人はそれを憶えてくれていて、その時に実現しなかった何かを、時間を超えて……まさか宇多田さんもこっち側からそんなオファーが来るとは思ってなかったと思うし。
なんかその、夢の続きじゃないですけど、その夢がパタッとフタを閉じるまでやりたかった、みたいな思いがあったのかもしれない……っていうのは、今俺、ちょっとロマンを入れすぎてしゃべってるかも、っていうのもあるんすけど。

菅波・山田・岡峰 はははは!

松田 でもまあ、宇多田さんがなんで受けてくれたのかっていうのは、訊かなくてよかったなって思いますね。

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企画・制作:RO69編集部

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