僕たちって、いろんな要素の音楽の顔があるんですけど、その『掛け合わせ方』が新しくなったんですよ
―― 2曲目の“Youth”のポップパンク感というかエモ感は、FIVE NEW OLDのルーツというか原点が垣間見える感じもありますけど、でも原点そのままの曲ではないっていう。
「そうですね。今回の作品に対して、制作的に『自分たちが成長したな』って感じられた点は……僕たちって、いろんな要素の音楽の顔があるんですけど、その『掛け合わせ方』が新しくなったんですよ。“Gotta Find A LIght”では、多幸感だけじゃないゴスペルの表現っていうものを――ゴスペルを使ってシリアスなものを描くことができたっていうのがあって。“Youth”に関してはa-haの“Take On Me”みたいな、ドラムマシンのティッコッ、ティッコッ、っていう感じに対してこのメロディを入れてたんですよ(笑)。それに対して、『自分たちが持ってたオルタナティブな要素を入れたらどうなるんだろう?』って。パンクだった曲に80sの要素を入れたんじゃなくて、80sっぽかった自分の曲に対して、アンプを使わずにファズの音を直で録音した鈍い、すごく近い音を入れてみるっていう、ポストロックの実験的な音を入れてみたりとか――」
―― なるほど。位置関係が逆なんですね。
「そんなのは別に聴いたところで、すごいマニアックな人しか『おおーっ』ってならないんですけど(笑)。でも、そういうことをやりつつ、自分たちとしては『誰が聴いても間口が広いもの』が表現できたと思うし。あと、“Melt”に関しては、自分たちが持ってるシティポップな部分に対して、間奏の部分でWATARU(G・Key・Cho)が新しいアレンジで、エクスペリメンタルジャズみたいな――Robert Glasperとか、今だったらローファイな感じでTom Mischがやってるようなこととかを入れてくれたりして。ヒップホップな部分もあるし。掛け合わせ方がどんどん面白くなっていったんですよね」
―― 時代に左右されない根源的な部分を突き詰めている一方で、時代の最先端の音楽を呼吸している表現でもあって。で、ミックスでは昔ながらのアナログテープを使用しているという一面もあって。
「デジタルでいいところはデジタルをちゃんと使って――そういう意味でもNEWとOLDな感じでやってるんですけど。レコーディングに費やせる時間も限られているので、アナログとデジタルのいいところを取りつつ、しっかりミックスに時間をかけたりっていう部分では古いプロセスを取ったりしてますね。面白いのが、新しいテープに1回目に入れた音って、2回目以降の音と全然違うんですよ。“Gotta Find A LIght”では真新しいテープを通したんですけど――普通テープを2回通したら、1回目と2回目では音は違うんですけど、それ以降はあんまり変わらないものなんですよ。それが新しいテープだと、音が4回変わるんですよ。それだけ情報量が入るスペースがあるからなのか……1回目はわりとあったかい音になって、2回目はレンジが広がる、っていうのがだいたいのプロセスなんですけど、そこからさらに3回目、4回目って聴こえ方が変わったりして。恐ろしい世界だなあって(笑)」
―― デジタルの場合は、そこは論理的には一緒ですもんね。
「論理的には一緒なんですけど、エンジニアさんがおっしゃってた話だと、パソコン自体も動作が不安定だから、1回目に再生した音と2回目の音は実は違うっていう――厳密に波形を見ると、確かに違うんですよ。だから、みんなが何回も何回も聴いている音だって、配信されているもの、CDで聴いているものも、同じ情報を受け取っているかもしれないけど、動作している機械の環境によって、そこには微妙な違いがあるんです」
同じことを繰り返しているようで、実は日々微妙に変わっていってるはずだし。そこもやっぱり諸行無常で。同じものは絶対にないっていう
―― よく「電圧が安定している夜中の時間帯に作業を」っていう話が、ミュージシャンとかエンジニア界隈では出ますけど、切実な問題なんですね。
「そういうのがあるみたいですね。でも、音楽の場だけじゃなくて、そういうことってみんなの生活の中でも起きてると思うんです。同じことを繰り返しているようで、実は日々微妙に変わっていってるはずだし。そこもやっぱり諸行無常で。同じものは絶対にないっていう。ライブだってそうじゃないですか。WWWであのライブをもう一回同じようにしたとしても、来れる人/来れない人がいたりするし、僕の声の調子も絶対に違うし。無意識の中で、いろんなことが常々変化を繰り返している、っていうことは何に対しても言えるんじゃないかなって。同じチェーン店でも味が違ったりするじゃないですか、マニュアルがあるはずなのに(笑)」
―― そういう揺らぎも、僕らの一部なんでしょうね。
「うん。それを捉えるのがすごく怖かったところもあるし。パフォーマンスをする人間として、常にいいものを、いいものをっていうのはあるけど、やっぱりコンディションが良くない時もある。それを『どうにかして良くしなきゃ』とか、いろんなことがあるんですけど……でもやっぱり、それも日々変わっていくものなんだ、って思うと、心にゆとりができるというか。『独りぼっちだ』っていうことも、ちょっとずつ日々変わっていくから。それに向き合った時に――すごく寂しいと思っていたものが、実はそうじゃないと気づける日が来るかもしれないし。やっぱり全部繋がってるんじゃないかなあって」
―― 僕はFIVE NEW OLDのインタビューをさせていただくのは3回目なんですけど、時を経るごとにHIROSHIさんが、思考を突き詰めることによって解放されてきてるなっていうのは感じますね。
「そうですね。前はそれを何とかして言葉にしなくちゃ、っていうふうに思ってたんですけど。新しくメンバーとしてSHUN(B)くんが入ってくれたことで……僕は超感覚人間なんですけど、彼はわりと理系タイプというか、曲を作る上でも構造を見て書いてくれたりするので。それまで『自分が理論的なところも担わなきゃ』って思ってたところからも解放されたし。そうすると、僕はより感覚的に、感情とか表現に対して向き合うことができるようになったから。それがひとつ大きなきっかけだったかなあって」
―― ライブを観ていても、SHUNさんが入ってくれた意味合いは大きいなあって思いました。
「天使みたいな人です。理系の天使(笑)。みんなで一緒にいる時間も長いけど、すごく楽しいし、みんな仲良いんで。もともとは本当に、メンバーが抜けた後に『代わりで誰か助けてください』っていう時に、SHUNくんがまず手を挙げてくれて、っていうところから始まってて。1年間ずっとあの4人でやってきたので――『これを当たり前に思っちゃいけない』と思いつつも、これがバンドにとっての当たり前みたいなところがあって。だからこそ一緒にいてほしいっていう思いが強かったので。『メンバーになります』って言ってくれた時は『おっ!』ってなったんですけど、そこで大きく何かが変わったっていうよりも、SHUNくんが助けてくれた1年間のあのバンドの雰囲気をそのまま引き継いでるっていう。それを僕たちは、ファンの方々に対してはっきりアナウンスできるようになった、というのが一番大きいかなあと」
―― 9月30日からはワンマンツアー「ONE MORE DRIP」もスタートします。ファイナルの東京公演は恵比寿LIQUIDROOMで。LIQUIDROOMで観るFIVE NEW OLD、楽しみですね。
「ねえ? 僕もやったことないんでワクワクなんですけど。全国ワンマンツアーっていうものが初めてなので。初めて行くところの人も、ギュッと濃い中身で、僕たちのライブを楽しんでもらえたらいいなって思うし。来た人の価値観――っていうと話が大きくなっちゃうんですけど、ライブを観終わった帰り道に、いつもと景色が変わっているような感覚とか、そういうものが届けられたらいいなあっていうふうに思いますね」