全員が2002年生まれの東京出身のバンド、chilldspot。比喩根(Vo)、玲山(G)、小﨑(B)、ジャスティン(Dr)からなる今春高校を卒業したばかりの4人が鳴らす音楽は、チルなソウル/R&Bを軸に、サブスク世代ならではのジャンルレスな感覚が通底している。ファーストアルバム『ingredients』は、ボーカル・比喩根の透明感溢れる歌を際立たせるような隙間の多いアレンジ、そして時折入ってくるギターソロがとても雄弁。繊細な筆致で自らのコンプレックスや切実なコミュニケーションを希望へと昇華させる4人に、結成の経緯から訊いた。
インタビュー=小松香里
自分の曲を成長させてくれる存在として思いついたのがバンドだった(比喩根)
――全員が2002年生まれということですが、結成の経緯は?比喩根 私と小﨑が幼なじみで、お互い別の高校の軽音部に入ってたんです。そこではオリジナル曲をやっていなかったので、オリジナルをやりたくなって、まず小﨑と私で組んで。それから私と同じ軽音部でバンドを組んでいたドラムのジャスティンを誘って。そのあと、いくつかの高校の軽音部が集まって合同ライブをする機会があって、そこで出会った玲山に声をかけたんです。
――共通して好きなアーティストがいたりしたんですか?
小﨑 それがなくて。音楽の趣味もバラバラでしたね。
比喩根 単に私がビビッときた人に声をかけた感じなんです。
――比喩根さんはもともと曲を作っていたという。
比喩根 バンドを組んだのは高校2年生の最後くらいだったんですけど、高1の後半ぐらいから、ひとりで弾き語り形態で(曲を)作っていました。もともとは、バンドをバックにつけるようなソロの歌手になりたくて。でも、最初はギターも全然上手く弾けなくて、自分が作った曲をもっとよくしていきたいと思った時に、自分の曲を成長させてくれる存在として思いついたのがバンドを組むことだったんです。
――では、音楽的なルーツというと?
比喩根 母がジャズやシャンソンが好きで、私が小さい時によく流していたそうなんですけど、そのことはあまり自分では覚えてなくて。自分自身が歌うのが好きになったのはAKB48がきっかけでした。そのあと、小学校高学年から中学卒業くらいまではボーカロイドにずっと浸ってて。ペンライト持ってライブに行って、朝6時から並んで……みたいなことをしていましたね。ボーカロイドって、人工の音声を使っていれば全部「ボーカロイド」というジャンルに入ってしまうからこそ、サウンドのジャンルとしてはロック系からジャズ系、R&B系とか、幅広く聴いていたのかなと思いますね。
――皆さんは、比喩根さんが作った曲を聴いた時はどんな印象を持ちました?
玲山 僕はBUMP OF CHICKENとかが好きでずっと聴いてて。今バンドで作っているような方向性の曲になじみがあったわけじゃないので、最初聴いた時は「なんだ? この曲」っていうふうにびっくりしましたね。
ジャスティン 僕は、親がエリック・クラプトンとかを聴いてる家庭だったんですけど。あと、中学の頃は吹奏楽部でトロンボーンをやったりしていた関係で、バンド以外のジャンルも含めて幅広く聴いていて。それからこのバンドを組んで、今まで聴いてきたジャンルとは全然違う仕上がりの曲ができあがるので、「こういうジャンルの楽しさもあるんだなあ」とか、気づけたところがたくさんありました。
小﨑 僕はELLEGARDENとかFACTとかが好きで。だから僕も一緒で、比喩根の曲を聴いて、歌詞も含めて「こういう曲が作れるんだ!」ってすごく衝撃を受けましたね。
――全員、ルーツはchilldspotのサウンドアプローチと大きく違うんですね。
比喩根 自分ではJ-POPだと思って作ってるんですけど、そうじゃなかった、みたいな感覚なんですよね。高校生になってから、NulbarichとかSIRUPとかSuchmosとか、そういうR&Bテイストの強い日本のアーティストの曲とかも軽音部づたいで聴くようになって、「好きだな」と思ったんですけど、自分の作る曲において特に意識しているわけではないんですね。作りたいものを作ったら不思議とそういうジャンルになった、みたいな感じなんです。
それぞれがやりたいことを追求していきたい(比喩根)
――どういうふうに曲ができていくことが多いんですか?比喩根 大体私がメロを書いて、あと基本的なコードっていうのを──結構コードはループが多いので、そのコードを決めて弾き語りデモを作って、それを各自に投げて。スタジオにみんなで集まった時に、「じゃあちょっとやってみる?」みたいな感じでアレンジしていって、大枠が決まったらそれぞれがどんどん詰める作業に入っていく、っていう流れで曲ができることが多いですね。
ジャスティン バンドを組んで最初に、今回のアルバムにも入っている“夜の探検”って曲を作ったんですけど、それは特に構成も何も決めずにアレンジしてできたものだったんで、「こうなるんだ!」って自分たちも驚きました。今でも同じように、メンバーそれぞれその場の思いつきを盛り込んだりしてますね。
玲山 バンドをやっていくうちに、だんだんいろんな人から「この曲いいよ」とかおすすめしてもらって、自分なりに掘っていって。それで最近は、「あの曲の、ああいうアプローチいいな」って思ったら自分なりに曲に落とし込んでみたりするんですけど、最初のほうは本当に何も考えてなかったです。
比喩根 でも、今でも「chilldspotだからこういうふうなアプローチにしよう」、「こういう曲調にしよう」っていうのはほとんど考えてないですね。「チル」っていう言葉がバンド名に入っているから、そういう曲調の曲も忘れずに作ろうという思いはあるけど、固執しているわけではないと思います。
玲山 やりたいことを自由にやってるよね。
比喩根 かっこよく言えばそんな感じだよね(笑)。方向性としては、邦ロックって言われるようなものじゃないほうがいい、っていうのは最初から言ってて。別に日本人受けを狙うっていうよりは、本当にそれぞれがやりたいことを追求していきたいんですよね。それでいて、何をやっても芯が通っているようなバンドにしたいっていうことはメンバーに話していました。