スズキユウスケ(Vo・G)、スズキナオト(G・Cho)の兄弟がソングライティングを手がけ、エモーショナルにアグレッシブにロックサウンドを奏で続けるオレンジスパイニクラブ。2021年には1stアルバム『アンメジャラブル』でメジャーデビューを果たし、昨今ではインディーズ時代の名曲“キンモクセイ”が『THE FIRST TAKE』により再び注目を集めている。そんなオレスパの待望の2ndフルアルバム『Crop』が、9月20日(水)にリリースされる。このアルバムがとにかくいい。アイロニカルな物言いや攻撃的なサウンドで武装することなく、まっすぐに愛ややさしさを表現するこのアルバムは、オレスパが本来的に持つあたたかさや柔軟さを素直に表現したものだ。結成12年目を迎えた彼らが、今なぜこれほどまっすぐに音楽に向かい、バンドサウンドを進化させることができたのか。メンバー全員に、その変化と進化の過程を語ってもらう。
インタビュー=杉浦美恵
自分たちが楽しければいいと思っていた。それが去年のツアーとか、あとはフェスに少しずつ出させてもらえるようになって、その過程で「解毒できた」というか(ユウスケ)
──新作『Crop』、これまでになくあたたかさや柔らかさが全面に出た、とても心に刺さるフルアルバムになったと感じています。
ユウスケ 配信シングルで“パピコ”を出したあたりから徐々にアルバムの形が見えてきて。前作の『アンメジャラブル』とはちょっと違う、やさしさとか愛をテーマにしていこうかってなったんです。あ、皮肉じゃないですよ? 今までの僕らはちょっと皮肉っぽかったかもしれないけど、今回、“ハルによろしく”“Crop”“hug.”がすごくやさしさに溢れた曲になったし、僕たちのエゴじゃない素直なやさしさを照れずに出せたアルバムになったと思います。
──やさしさやあたたかさって、これまでもオレスパになかったわけじゃないけど、確かにどこか捻くれた、尖った表現のほうが先行していたように思います。今回はその武装が解除されている感じ。
ナオト 前作の『アンメジャラブル』は、“キンモクセイ”でついたイメージを払拭したいっていうわけじゃないけど、違う一面も見せたいなっていうのがあって。それはそれで悪いわけじゃなかったんですけど、この2年間でやっぱり考えも変わってきたんですよね。
ゆっきー(B・Cho) 歌詞もそうだし、個人的には作る曲の曲調も、新しいものを取り入れてきている気がしています。ファンクとかブラックミュージックっぽい雰囲気のある曲をナオトが作るようになってきて、僕はもともとそういう音楽が好きだったので楽しく作れました。
ゆりと(Dr) ドラムのフレーズ的にも、「こういう音作りをしていきたい」というのを今回すごく体現できていると感じていて。昔好きだったパンクサウンドも、そういう音がほしい時は使うけど、それだけじゃなくて、ゆっきーが言ったみたいな今僕らが好きな音楽のフレーズやサウンドを取り入れられたことがとてもよかったです。
──確かにバンドの新機軸も見えて、でも、もともとのアグレッシブさもある。もう一度バンドの歩みを見つめ直すみたいなこともあったんですか? 去年バンド結成10周年を迎えたということも関係している?
ユウスケ そうっすねえ。これまでも人間らしい気持ちは持ってやっていたと思うんですけど、どこかでかっこつけてた部分もあるんですよ。バンドマンだから毒を持ってビビらせたいというか、お客さんを圧倒するようなバンドになりたかったし、自分たちが楽しければいいと思っていた。それが去年のツアーとか、あとはフェスに少しずつ出させてもらえるようになって、その過程で「解毒できた」というか。
──「解毒」!
ユウスケ まるく穏やかになってきてんなって思って。フェスでたくさんの人が初めて俺らのライブを観に来てくれるって、こんなありがたいことはないなと。その思いが素直に歌に出て、ライブにも直結しているんじゃないかと思います。今後さらに解毒が進んで、いつか水のように濾過されて純粋できれいな人間になっていくのかもしれない(笑)。それがいいのかはわかんないですよ? でも「解毒」というのは僕の中で今重要なことです。
ナオト 僕も解毒されてる感覚はありますね。このアルバム、自分でもやっぱり変わったなって思いますし。で、変わってもオレンジスパイニクラブらしさは消えてないなと思えたし。前はたとえばThe ドーテーズからオレンジスパイニクラブに改名した時も怖さがあったんですけど、結果、変えてよかったし、芯はブレずにプラスになることのほうが多かったので、最近はもう変化に対する怖さはないですね。今回で言えば“ルージュ”や“hug.”は今までやってこなかったことをやっているけど、やっぱりオレンジスパイニクラブだなって思えたので。
ゆりと 確かに前は尖っていたかもしれないけど、ユウスケさんとナオトは、ふたりとも、もともとの人の良さっていうのがあって。まあ、性格はクズなんですけどね(笑)。
ナオト ははははは。言うな、そんなことを(笑)。
ゆりと でもほんとに、もとの人間の良さはバンドに入った時からわかっていたから。でも毒っていうか、尖ったところがあったから、The ドーテーズっていうバンドがあったわけで。そこから歳を重ねて、僕個人的には結婚したり、子どもも産まれたりして、やっぱり大人になっていってるのかなあって思いますね。僕の場合はもう、毒が回りきっておかしくなっているのかもしれないですけど(笑)。
ゆっきー ゆりとが言う通り、もともとふたりはやさしくて、それを覆っていた棘というか殻が破けて、自分と素直に向き合うようになったんじゃないですかね。それがきっと「解毒」ということなんだと思います。
「こうしないとオレスパっぽくないよな」っていう考え方を一旦やめて、もう自由に肩の力を抜いて曲を作ってみようと(ナオト)
──そして、今作はトオミヨウさんがアレンジを手がけている楽曲がいくつかあって。やはり「解毒」というか、やさしさを素直に表現するみたいなテーマとも関連しているんでしょうか。ナオト 「やさしい曲ができたからトオミさんに」というわけではなくて、やっぱり4人だけで曲をさらにブラッシュアップしていくには限界があるので。だったらアレンジャーさんに入ってもらおうとトオミさんにお願いしました。トオミさんが入ったことによって、結果的にオレスパのやさしさみたいなところが生きてきたという感じですね。お願いしてよかったです。
──“ルージュ”はROCK IN JAPAN FESTIVAL 2023でもさっそく演奏していましたが、とてもいい曲ですよね。このタイム感、グルーヴ感は洗練されたバンドサウンドだと思います。
ナオト なんでこういう曲を作りたかったかというと、これまでの「オレンジスパイニクラブらしさ」みたいなものが、結構自分を縛っていたんだなと気づいて。「こうしないとオレスパっぽくないよな」っていう考え方を一旦やめて、もう自由に肩の力を抜いて曲を作ってみようというので作った曲ですね。
──歌詞も、肩の力は抜けているけどしっかりラブソングとして刺さるものになっている。新しい扉が開いたようなこの曲のグルーヴ感を、ゆりとさんはどう感じました?
ゆりと 僕ら、時々スタジオに入って遊びでコピーとかやったりすることがあるんですけど、その影響もちょっと出ているのかなって思っていて。言葉では言わないけど、最近こういうの聴いてるんだよね、かっこいいんだよねっていうのを、軽いセッションのやりとりで意思疎通していたようなところがあって。それが“ルージュ”に繋がっていったのかなっていうのは最近思っていますね。
ナオト ああ、確かに。
ゆっきー いい曲だよね。前からナオトはそういうタイミングがあって、ドーテーズ時代には――今もやってる曲ですけど“タルパ”っていう曲を持ってきたり。あれもすごく新鮮だったし、その流れでオレンジスパイニクラブになって。で、今回はまず“タイムトラベルメロン”があって、そのあとに“ルージュ”だったので。だから俺も、あんまり変化に対する抵抗はなかったですね。
──“タイムトラベルメロン”は昨年10月にリリースされていて、《グッバイ、過去/ハロー、最低最悪なナウ》という歌詞とかは、今のオレスパだからこそだという気がします。
ナオト そうですね。たとえば50年後とか、自分は76歳なんですけど、もしかしたら孤独死寸前になってるかもって、そんな姿をたまに想像するんですよ。それはやだなあって思うんですけど。この曲は、50年後から戻ってきたような気持ちで今を生きるのがいいよなと思って書いた曲でした。
ユウスケ 「50年後孤独死するかも」みたいな気持ち、めちゃめちゃわかる。俺も同じようなこと考えたりする。生活保護受けて、めちゃめちゃ辛くて、バンドもやめちゃってて、メンバーもみんなどこにいるかもわかんない、みたいな。そんなのはやだと。めっちゃわかる。でもこの曲、これまでそういう気分で歌ってなかったわ。ただメロンを食ってタイムトラベルしてっていう、SFソングの感じで歌っていたから。で、さっき言っていただいた1番の歌詞のところって、まさに今のことなんですよね。現状と重ねながらライブで歌ったら、また違った表情になるのかなっていう感じがします。
──不思議なんですよね。《ハロー、最低最悪なナウ》って言ってるけど、何かちょっと希望というか、あたたかい気持ちになれる不思議さ。今が最高って言ってるわけじゃないし、決して未来は希望に溢れていると歌う曲でもないんだけど、なぜかすごく頼もしく響くというか。《それからあとはサンキュー》っていうのが効いている気がする。
ナオト そうですね。それに向けて後半は明るくするように書いていたので。そう聴こえるならよかったです。