──安易に結論じみたものに飛びつかない姿も反映されているのが、今作の4曲だと思います。「今ここにこれが欲しい」っていうことをくれるのがバンドの醍醐味というか、いちばんときめく部分。それができるのは「バックバンド」じゃなくて「バンド」なんです
そうですね。見て見ぬふりができなくて生きづらい部分がありつつも、そのほうが「生きてる」って感じて、自分を好きになれるというか。ありのままの自分を受け止めたり、欠点も欠点じゃないとして自己肯定するのは考え方のひとつとして素晴らしいですけど、私はそれに向いてなくて。自分のできないこと、欠点、悩みとかに苛まれるほうが「生きてる」っていう気がするし、真っ当でいられる気がするんですよね。それが感情の堂々巡りをし続けている所以なのかなと思います。
──歌詞で描かれているのは出口のない感情の堂々巡りですけど、鳴っている音はとても明快ですよね。バンドで鳴らしている音が、圧倒的にかっこいいですから。
ありがとうございます。「こういうことをしたい」って共有できるのは、サポートのメンバー、エンジニアさん、テックさんとずっと一緒にやってきた歴史によるものもあるのかなと思います。FINLANDSのメンバーは私ひとりですけど、「4人で、4つの楽器でどれだけできるか?」というのをずっと考え続けているので、サウンドに対する理想は、これからもずっと追求していきたいです。
──バンドの音にときめく感覚は、塩入さんの中でずっと大きな存在なんでしょうね。
おっしゃる通りです。昔、ライブを観に行ってギターの音が鳴った時に味わったびっくりするくらいの爆音、傷つくようなあの感覚ってどういうことなのかよくわからなくて。今でもライブハウスに行ってバンドのサウンドに圧倒されますから。機材とか細かいことは今でもよくわからないので、「自分は音楽的ではないな」と思うことがあるんです。でも、自分がめちゃくちゃ興奮する音というのは、よくわかるんですよね。なくてもいいような小さなこだわりをスタジオで積み重ねながら理想の音を追求していくことは、ずっとやってます。今回の4曲も理想的な音になりました。
──「バンドでありたい」という気持ちはありますか?
あります。バンドでありたいですね。私は解散したくないからひとりでやってるだけで、サポートメンバーの3人との今の形で満足していて、この4人で音を出すことに意味があると思っているんです。「今ここにこれが欲しい」っていうことをくれるのがバンドの醍醐味というか、いちばんときめく部分です。それができるのは「バックバンド」じゃなくて「バンド」なんですよね。
──何度も音を一緒に鳴らすことでしか育めない阿吽の呼吸みたいなことですか?
そうです。空気感というかセンス? この4人は、ずっと喋り続けていられるんですよ。それって会話の相槌のタイミング、会話のセンスとかがすごく噛み合うっていうことなのかなと。4人でひとつの色になれるのは空気が合うということ。それがあるから「ここで欲しかったフィルが来た」「欲しかったベースのスライドが来た」というのが生まれてくるんじゃないかなと思います。
──1曲目の“スーパーサイキック”も、いい音が鳴っていますね。
ギターソロ明けでリードギターが空間系みたいなエフェクトをかけた独特な音を鳴らしているんですけど、それがこの曲にすごく合ってます。プリプロの時点でこれは入ってたので、どうしても再現したくて。
──塩入さんの歌声のお転婆な感じがすごく合っている曲でもあります。
「お転婆」と言われたのは初めて(笑)。でも、自分で言うのもなんですけど「暗くて嫌なやつ」というよりも「明るくて、言うことを聞かないやつ」っていう感じが、“スーパーサイキック”はしますね。
──毒を吐くけど憎めない感じというか、物わかりがよくはなさそうというか……悪口みたいなことばかり言っていますけど(笑)。
悪口になってますよね?(笑)。でも、「お転婆」って面白い。「物わかりがよくない」っていうのは、FINLANDS全体を物語る言葉だと思います。“スーパーサイキック”は、好きな漫画を題材にして書きました。どんな時代であっても人間が存在する限り感じるであろう人間に関する歌ですね。
──題材にした漫画は、なんですか?
『天国大魔境』です。SFの世界観が好きなんですよ。性差がなかったり、愛情に対する差別がなかったりしますし。去年、一昨年くらいから『天国大魔境』にハマってます。「こういう曲を作る!」って思ってました。
──架空の設定を比較的自由に作れるからこそ作者の描きたいテーマが鮮明になりやすい面があるのがSF作品だと思います。
そうですよね。人間は足りすぎていても足りなすぎてもうまくいかなくて、違和感がないと感情は発生しないんだと思います。そういうことをSFは如実に描きやすいというか。退化した世界ならば「足りない」、ものすごく進化した世界ならば「満ち足りすぎて何かが足りない」。そういうことで生まれる感情を描けるのがSFなんでしょうね。
──“新迷宮”は、ギターリフがかっこいいですね。FINLANDSはめんどくさい女をずっと歌い続けてる。そして「落ち着きのないやつだな」と、今回の4曲で感じました(笑)
ありがとうございます。リフが鳴り響いた瞬間に生じる興奮感、ときめきが好きなんです。今の音楽は、美しい音色のアンサンブルで出来上がってるものが多いですけど、シンプルな音の組み合わせをひとつの楽器が奏でて生むキャッチーさが、リフにはあるように思います。口ずさめたりもするそういう物を作りたくて、すごく考えたのが“新迷宮”のリフです。
──“新迷宮”って、キャッチーなタイトルですね。「新」がつくと「何が新しいんだろう?」とか、いろいろ想像が膨らみます。
「新」をつけるのって、好きなんですよね。新横浜、新大阪とか(笑)。もともと「一本道」を指していて、あとから「迷路」という意味も加わった「迷宮」ですけど「新」がつくことで「どっちなんだろう?」ってなる気がします。先ほどもお話をしたような堂々巡りみたいな感じです。
──塩入さんは言うまでもなくミュージシャンですけど、言葉も好きですよね?
はい。言葉のほうが好きですね。
──表現したい言葉を、より活性化させるための要素が音ですか?
そうだと思います。私は音楽的ではないというか。自分が出す音に関する「こういうのが好き」とかはありますけど、音楽理論や音の作り方に関して詳しいわけではないんですよね。言葉のほうが先行しているタイプなんだと思います。
──“HACK”も矛盾した感情の間を延々と行き来する描写と向き合う楽しみが、すごくある曲です。
人間は矛盾を孕んでいるんだと思いますし、自分が感じていることがすべてではないですし、人間の生き方の手本はなくて、「こう考えれば世の中は平穏になる」というのもないんですよね。だから私はSNSとかで世の中で起きていることに対して言及することはないんです。そういうことによって何かが変わるとは思えないから。遠くの街で起きてる争いを止めようとするよりも、隣にいる人や手を伸ばせる人を大切にするほうが大切だって甲本ヒロトさんが言ってたんです。それがずっと印象に残ってるので、無責任なことは言わないのが私に根付いているんだと思います。
──“HACK”にもそういう面が表れていますよね?
はい。私がずっと考えてることが形になってます。ネットで時世とかについて書かないからといって何も考えていないわけではなくて、考えることは大切だとも思っていて。私が救ってあげられるような人はすごく少ないけど、それでも私たちは生きていかなきゃいけない。だからきちっと考えることはしたい。そういう気持ちです。
──“ひみつのみらい”は、今作の4曲の中で最も物語が鮮明にイメージできる曲でした。恋の終わりを迎えた男性の心情が、とても伝わってきます。
男性になりきってみようと思って、いろいろな想像をしたんです。女の人と何年間も付き合って、同棲して、当たり前に愛されていて、自分も相手のことが好きだけど気持ちを伝えることに重きを置いていなかった……という男性です。そういう男性が相手から手放された時にどういうことを感じるのか? それを日々、喫茶店とかで考えました(笑)。曲自体は1日くらいでできたんですけど、歌詞は1番のAメロの4行しか決まってなくて、そこからが長かったんですよね。
──ざっくり言うと、かなりダサい男の歌です。
そうなんです。「俺、ふられんの?」みたいなことです。
──愛すべき部分も感じる人物ですが。
そういうので許されてきた結果が、こいつのこういうことです。まだかっこつけてるんですから、ろくでもないですよ。私はこの男、めっちゃ嫌いです。自分で作っておいてあれなんですけど(笑)。真っ当に人を大切にしてきて、真っ当にただ終わりを迎えたんだったら、「幸せになってね。今まで楽しかった。ありがとう」というただ素晴らしい恋の終わりになってしまうんです。そうじゃなくて、「おまえが全部いけないんだろ」という男性の曲を作りたかったんですよね。先ほどおっしゃったように、誰かになりきることで自分が見えてきた感じもあります。最初の4行の《愛されない理由なら/山程思いついちゃって嫌になっている/愛された理由だけ/未だに解らないままのわたしは言う》は、私の気持ちそのものだなと思ってます。「他人に愛されてる」っていう実感が、いつも湧かないんです。それってすごく贅沢で、相手に対して失礼なことですけど、そういう自分の情けなさみたいな部分が“ひみつのみらい”には反映されてます。
──この曲も含めて、たくさんの感情を渦巻かせている人の姿を描いたEPだと思います。
そうですね。基本的に私はせっかちで、落ち着きがないんです。このEPを作って感じたんですけど、「FINLANDSはめんどくさい女をずっと歌い続けてるな」と。そして「落ち着きのないやつだな」と、今回の4曲で感じました(笑)。
──(笑)。器用に生きてはいない人の音楽ですよ。
かわいそうなことに、自分自身では器用だと思ってる部分があるんです(笑)。でも、ふと気づいたら「自分は全然器用じゃないんだ?」っていう「できなさ」みたいなところは、本当に私自身が投影されてるなあと思います。