オンラインサーキットフェス「NIPPON CALLING 2020」

下北沢・渋谷・新宿という3エリアを股にかけ、2016年以来毎年開催されてきた日本最大級のサーキットフェス「TOKYO CALLING」。今年は新型コロナウイルスの影響でオンラインでの開催となった。「NIPPON CALLING」という名のとおり、2日間で全国のライブハウス51会場で203組のアーティストがライブを繰り広げるというスケールは配信ならでは。行ったことのないライブハウス、観たことのないバンドに簡単にアクセスできるという意味では、とてもサーキットらしいフェスになった。

この「NIPPON CALLING」では各地のサーキットイベントやメディアとのコラボステージも多数展開された。そのなかのひとつ、9月22日の渋谷のTSUTAYA O-CrestからはJAPAN'S NEXT 渋谷JACKがキュレーションするステージが実現。ここではその模様を中心にレポートする。

オンラインサーキットフェス「NIPPON CALLING 2020」 - ひかりのなかにひかりのなかに
オンラインサーキットフェス「NIPPON CALLING 2020」 - ひかりのなかにひかりのなかに

渋谷JACKコラボステージ、トップバッターは現在6ヶ月連続配信リリースを敢行中のひかりのなかに。イベントのジングルが鳴ると、「ひかりのなかに、はじめます」というヤマシタカホ(Vo・G)の一言から“冴えない僕らに灯火を”で勢いよくスタートだ。塊のような3ピースのサウンドがヒリヒリした情感とともに伝わってくる。“オーケストラ”ではジャキジャキしたギターとエモーショナルな歌がぐんぐんと広がり、7月にリリースされた“ブルーユース”では直線のコードとメロディがエモーションを乗せて熱く走る。1曲ごとに短距離走を全力疾走するような痛快さだ。「『もう1回がんばろう』を続けて、いつか必ずライブハウスで会えたらいいなって思います」という言葉から鳴らされたラストチューン“ナイトライダー”はひときわ思いが込められていた。

オンラインサーキットフェス「NIPPON CALLING 2020」 - め組め組
オンラインサーキットフェス「NIPPON CALLING 2020」 - め組め組

続いて登場したのは、め組。ダンサブルなSEに乗って登場すると、菅原達也(Vo・G)の透き通るような声が“ぼくらの匙加減”の旋律を歌い出す。出嶋早紀(Key)の奏でるピアノの音色、外山宰(Dr)が叩く裏打ちのビートが軽やかでカラフルな景色を描き出していく。続けて“Amenity”。サーカスのようなポップサウンドのなかに一抹の切なさを混ぜた、このバンドの個性が一気に広がっていく。久しぶりに観たのだが、パレットの色はますます多彩になり、繊細さと大胆さが共存する筆使いもダイナミックに進化している。菅原がタンバリンを打ち鳴らして始まった“悪魔の証明”では妖しげでセクシーなポップネスがドラマティックに放たれる。画面越しのコール&レスポンスも決まって、いよいよライブはクライマックスだ。この日最後に披露したのは9月30日(水)に約1年ぶりの配信シングル曲としてリリースされる“YOLO”。直前の菅原のMCのとおり、「無理をしないでほしい」というめ組が今伝えたいメッセージが真っ直ぐに伝わってきた。

オンラインサーキットフェス「NIPPON CALLING 2020」 - クジラ夜の街クジラ夜の街
オンラインサーキットフェス「NIPPON CALLING 2020」 - クジラ夜の街クジラ夜の街

渋谷JACKコラボステージの3組目は東京発のティーンエイジャー4人組・クジラ夜の街だ。宮崎一晴(G・Vo)が真っ暗なステージの真ん中でギターを弾きながら“インカーネーション”を歌い出す。と、一転、耳をつんざくようなノイズとともにステージがストロボで照らされ、“星に願いを”へ。「スーパーギタリスト、山本薫」という紹介から突入したギターソロがエモーショナルに鳴り響く。溢れ出す思いをギリギリのバランスで音楽に仕立てていくクジラ夜の街のロック。その切迫感は、こうしてディスプレイを通して観ていてもひしひしと伝わってくる。「今の僕らは、ちょっと前に比べれば少しは自由だけど、どこか囚われの身のような感じがします。だったら、飛び出せない環境のなかで精一杯おもしろいことをしましょう」と奏でられた“ヨエツアルカイハ1番街の時計塔”と“夜間飛行少年”の2連発で、最後はスケールの大きな風景を描き出してみせた。

オンラインサーキットフェス「NIPPON CALLING 2020」 - リュックと添い寝ごはんリュックと添い寝ごはん
オンラインサーキットフェス「NIPPON CALLING 2020」 - リュックと添い寝ごはんリュックと添い寝ごはん

さあ、いよいよ後半戦。4組目として登場したのはリュックと添い寝ごはんである。まずは8月19日に配信リリースした新曲“生活”からスタートさせると、新曲も織り交ぜながら肩の力の抜けた3ピースロックを展開していった。このご時世、「配信ライブに慣れちゃってるよ」と堂免英敬(B)がいえば、「次、生でやるときを楽しみに今を生きましょう」と松本ユウ(Vo・G)が返す様子は、まるで楽屋のようなユルさ。そんなムードのまま松本がギターを爪弾き始め、さらりと“サニー”へ。パーソナルな響きがバンドの重厚なアンサンブルに取って代わり、独り言のような歌詞が力強いメッセージに変わっていく。最後のMCではROCK IN JAPAN FESTIVALに出演した去年の夏を懐かしみながら、締まっているのかいないのか、ここでも自然体の挨拶を終えると、最後は軽快なロックンロールの未発表曲で締め。最後まで彼ららしい、風通しのよさを感じるライブだった。

オンラインサーキットフェス「NIPPON CALLING 2020」 - FINLANDSFINLANDS
オンラインサーキットフェス「NIPPON CALLING 2020」 - FINLANDSFINLANDS

FINLANDSのライブはドラムのカウントから“ULTRA”でしっとりと始まった。身体を傾けながら歌う塩入冬湖(Vo・G)の独特のボーカルは配信でも圧倒的な存在感だ。身体から絞り出すように歌う塩入の声が、曲を追うごとに熱を高めていく。「我々、毎年ライブを80本くらいやってたんですけど、それがなくなって。今年2月以降、ライブというのが一大イベントとしてあるんですよ、我々の中に。でもライブって本来そういうものだよなって、改めて最近思っております」とこの状況への心情を語ると、一気にアクセルを踏み込むように“call end”に流れ込む。「好きなように観てください。暴れましょう」という挑発的な言葉から鳴らされた“バラード”、そしてサポートギター澤井良太のギターも炸裂した“クレーター”。自分たちの世界観をくっきりと伝えつつ、30分を駆け抜けたFINLANDSであった。

オンラインサーキットフェス「NIPPON CALLING 2020」 - おいしくるメロンパンおいしくるメロンパン
オンラインサーキットフェス「NIPPON CALLING 2020」 - おいしくるメロンパンおいしくるメロンパン

そしてO-Crestの渋谷JACKコラボステージ、トリを務めるのはおいしくるメロンパンだ。“色水”を皮切りに、彼ららしい繊細さとひねくれを抱えた楽曲が繰り出されていき、あっという間にバンドの世界観で僕たちの耳と目を支配してしまった。「一生懸命ライブしていきます。自由に楽しんでってちょうだい」という峯岸翔雪(B)の挨拶を経て“epilogue”へ。切実なナカシマ(Vo・G)のボーカルとギターソロに強烈な印象が残る“泡と魔女”のスリリングさ、原駿太郎(Dr)のドラムが織りなす緩急自在のリズムが独特の風景を描き出す“走馬灯”。何気なくさりげなく演奏される曲を聴いているうちに、じわじわとおいしくるメロンパンの沼にハマっていくような感覚。これがこのバンドを観る醍醐味だ。切っ先鋭いセッションから、ラストに鳴らされたのは人気曲“シュガーサーフ”。疾走するコードがクライマックスを走り抜けていった。

今回の「NIPPON CALLING」は配信サーキットフェスということで、お目当てのアーティストのライブが重なっていてもアーカイブで観ることができるというのが魅力。というわけで、ほかにもふたつばかり気になるアーティストをピックアップしたい。渋谷のTSUTAYA O-EASTでライブを行った、ネクライトーキーバックドロップシンデレラだ。

オンラインサーキットフェス「NIPPON CALLING 2020」 - ネクライトーキー Photo by かわどうネクライトーキー Photo by かわどう
オンラインサーキットフェス「NIPPON CALLING 2020」 - ネクライトーキー Photo by かわどうネクライトーキー Photo by かわどう

ネクライトーキーは“めっちゃかわいいうた”でライブをキックオフ。後半に向けてむちゃくちゃにテンポアップして終わると、オフマイクで朝日(G)が絶叫しているのが聞こえてくる。続けて“きらいな人”、そして全員で向き合って呼吸を合わせて“夢みるドブネズミ”に突入していく。各種効果音も多用されたとっちらかったアレンジの上で、もっさ(Vo・G)の天性のポップな声が躍る。情報量は多いのに、スコーンと鼓膜を突き抜けてくるような爽快感はこのバンドならではだ。そのもっさの歌がど真ん中に据えられた“渋谷ハチ公口前もふもふ動物大行進”(これ、こんなグランジな曲だったっけ?)、中村郁香(Key)が鳴らすオーケストラルヒットの音が強烈な“オシャレ大作戦”。個性的なポップチューンを連発し、“遠吠えのサンセット”でフィニッシュ。

オンラインサーキットフェス「NIPPON CALLING 2020」 - バックドロップシンデレラ Photo by かわどうバックドロップシンデレラ Photo by かわどう
オンラインサーキットフェス「NIPPON CALLING 2020」 - バックドロップシンデレラ Photo by かわどうバックドロップシンデレラ Photo by かわどう

そして同ステージのトリを務めたのが、「TOKYO CALLING」を初回から支えてきたバックドロップシンデレラだ。「TOKYO CALLING」の主催者にしょっちゅう呼び出される苦しみと、こうしてトリのステージに立てる喜びを“およげ!たいやきくん”の替え歌に乗せて豊島”ペリー来航”渉(G・Vo)が歌うというオープニングから、早くもこのイベントに対する愛が溢れ出ている。そこにでんでけあゆみ(Vo)はじめメンバーが登場して、“太陽とウンザウンザを踊る”でパーティの火蓋を切って落とすのだ。“フェスだして”の途中には名古屋でしかライブで聴けないレア曲“飛んでけ鳥”を挟み込み「NIPPON CALLING、出れた〜!」と絶叫する豊島。その後も彼らは大トリを任せてくれた主催者の気持ちに全力のパフォーマンスで応えていった。終盤は“本気でウンザウンザを踊る”、“さらば青春のパンク”と鉄板曲でカメラの向こうのオーディエンスをとことん煽り立て、さらにあゆみがフロアにいた関係者までも巻き込んで踊り出す。アンコールの“サンタマリアに乗って”まで、すべてを「踊り」の楽しさとエネルギーに変えてしまう彼ららしいステージだった。(小川智宏)
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