──現体制のChimothy→として初めて作った曲が“夢見るボイジャー”だったんですよね。4月にリリースされたミニアルバム『mishmash』に収録されている曲ですが、あの曲は、「ここから新たな挑戦が始まるんだ」というワクワク感と、少しの不安と、でも「この3人なら」という頼もしさとが刻まれた楽曲だと思いました。やっと、自分の心に嘘をつかずにバンドをやれるときが来たんだなって感じた(松尾)
松尾 本当におっしゃる通りで、これまで続けてきたことに変わりはないものの、気持ちが新たに入れ替わった瞬間にできた曲で。やっと、自分の心に嘘をつかずにバンドでやれるときが来たんだなって感じたタイミングでした。自分の気持ちを打ち明けられるメンバーがいて、そのメンバーに対して「こういう音楽をしたい」「こういうイベントに出たい」「こうなっていきたい」ということを歌った曲です。ふたりも「うん、一緒にやっていこう」って言ってくれることがわかっていたから、その想いを歌詞にできたというか。「一緒に」というのはバンドだけじゃなくてお客さんに対しての想いも含めてなんですけど、それがしっかり込められた曲だったと思います。聴けば聴くほど、伝わってくれるんじゃないかな。
木村 歌詞含めて、ほんまにこの3人でこれから進んでいくんやなって思った曲ですね。りょーまにデモをもらったんですけど、誰かが考えたドラムを叩くということ自体が初めての経験だったので、それもめっちゃ新鮮で。
──この3人での最初の一歩という楽曲だったんですよね。歌詞の《僕らだけは前を向いていよう/そんで でっかい海を見下ろすのさ/憧れの高台から》っていうところとかは、まさにその想いが表現されていて。
松尾 冒頭の《ハイウェイ走る暗闇の中》っていう歌詞も、たぶん3人ともが経験したことがある光景の描写で。機材車で、深夜に豪雨の雨粒に打たれながら走っていくみたいな、バンドマンならリアルに共感できる景色というか。雨音がうるさすぎてBGMもあんまりよく聞こえない、そんな中で後ろの席でメンバーが寝ていて、運転をしているメンバーと助手席に座っている自分と、ちょっとバンドの未来の話をする──そういうシーンをイメージして書いたのがこの冒頭の歌詞です。そこから、音楽の売れ方、聴かれ方が変わってきた中でも、自分たちがやりたいことは変わらずあるよね、というところに繋がって⋯⋯「でっかい海を憧れの高台から見下ろす」というのは、わかりやすくいうと、大きなステージでたくさんのお客さんを目の前にして、自分たちの音を思い切り放っていく──そういう場所にみんなで行こうよ、という想いです。いつも捉え方は聴く人に委ねたいと思って曲を書いているので、どう受け取ってもらってもいいんですけど、まずはそのステージに立てるように、前を向いていくしかないよねって、そういう気持ちでしたね。
──この3人でやっていくようになって、今バンドの成長感、成熟感っていうのは、どういうところに感じていますか?転がしていけるものの大きさがどんどん大きくなっている感覚があるんですよね。僕はこれからのChimothy→がとにかく楽しみ(泉)
松尾 りょーまが入ったときも、かほすけが入ったときも、メンバーが変わることって、視点を変えればすごくポジティブで、バンドがステージを上げるためのタイミングだったんだな、と思うんですよね。ふたりとも別のバンドを経験したり、それぞれに好きな音楽を聴いてきて、自分とは違った感覚を持った状態でChimothy→に入ってきてくれたのも大きいです。自分がChimothy→のライブをしていく中では、それがいつしかマンネリ化していることにさえ気づかなかったというか。これがベストだから変えようがないと思っていたことにも、思いもよらない視点から、「いや、これはこうしたほうがいいんちゃう?」みたいなことを言ってくれるんですよ。そうやって、しっかり意見をぶつけ合える3人が集まったというのは、私は今すごくメンバーに恵まれているなあと、日々実感しています。
泉 あかりはどんどんギターがうまくなっているし、かほすけは入ってまだ半年だけど、どんどんパワーアップしているから、バンドとしてすごくまとまった音を出せていると思います。
──おお、ライブでやる曲ごとにリーダーを決めるんですか?
松尾 そうなんです。
木村 この曲はりょーまがリーダー、この曲はあかりがリーダー、って決めてみたりとか、曲ごとにそこに込めるパワーを考えてみたり。この曲はパワーマックス、この曲は少し抑えめとか、セットリストに応じた調整とかも3人で試行錯誤しています。それが楽しいですね。
──ライブの中で、流れや波を作っていこうと。
松尾 そうです。セットリストを書き出した紙の曲の横に「P」とか「PP」とか「PPP」とかを書いていた時期があって。ライブが終わったあとに「セトリください」ってお客さんに言われたりするんですけど、お客さんからしたら見たことないマークがついてて謎だったと思います(笑)。
木村 「Pって何?」ってね(笑)。パワーの量を示したものです。
──「PPP」がマックス?
松尾 日によるよね。「PPPPPP」みたいな日もあるし(笑)。「P」がいちばん弱いかと思いきや、それより弱い「ゼロ」もあったり。明確な決まりはないんですけど、3人の意識合わせとしてやっていました。音の強さというよりかは、気持ちですね。気持ちの乗り具合みたいなところで。
──ああ、じゃあ思い切り盛り上がる“SUMMER DAYS”だからといって、それが毎度「PPP」なのかどうかは、ライブによって変わると。
松尾 そうですね。セトリのどこに置くかにもよるし。
──同じ曲でもライブによってリーダーが変わったりもするんですか?
松尾 全面的には私が引っ張っていくという前提ですけど、今回はこの曲のベースラインをしっかり聴かせたほうがグルーヴが出るよねっていうときにはりょーまがリーダーになるし、ここはドラムの縦がしっかり効いてたほうがいいよねっていう場合はかほすけがリーダー、みたいな。バラードでも、ここはもうパワーマックスでみんなに突き刺すんやっていうときは私がリーダーで(笑)。
泉 それもまだ試行錯誤の途中なんですけどね。
木村 セットリストの中で、この曲ちょっとこなしちゃってるなあって感じるときがあって。あかりとかは何年もやっている曲で、決まった流れがある⋯⋯という中でそれを客観的に見れるのは自分やなと思ったんです。それで、何か新しいことをしてみようぜっていうので、「曲ごとにパワー決めてみいひん?」って。
──サウンド面だけじゃなく、バンドとして成長していくための提案が、メンバーから積極的に出てきているということですね。
松尾 このメンバーになる前にもずっとライブをしてきた中で、「今日めっちゃよかったよね」って言っても、他のメンバーは「いや、自分は微妙だった」みたいなことがたまにあって。メンバー間でライブの完成度の感覚にバラつきがあるのって、どうなんだろうと思っていたんです。そこが全員一致したら最高だなと思いつつも、解決方法がわからずにここまで来ていて⋯⋯。でも、さっき言ったように新たなメンバーが入るタイミングで、こういう意見をもらって、前向きな改革が起こるタイミングがあって、それがすごくいいなと思っています。
──前向きな改革、素晴らしいです。これまで求めていてもできなかったことが、この3人になってできるようになっているということですよね。
松尾 本当にそうです。
──2025年、きっとこの3人だからこそ臆することなく新しい挑戦もできているんですね。
松尾 今まですごく怖がりすぎていたところを、この1年で挽回しようとしているみたいな感覚があります。ずっとやりたかったことがたくさんあって、でもそれを自分ひとりが思っていてもできなかったし、メンバーに対しても口に出せなかったんですよね。それが今どんどん実現していっている。それはこのメンバーになって、バンドがどんどん前に進んでいる証拠でもあるから、そこは踏み留まらずにいきたいです。当たって砕けるつもりはないですけど、でもそれくらいの勢いで、やってみなわからんしな、とにかくやってみようっていう気持ちのほうが、今は大きいです。
──当たっても砕けないタフさをChimothy→が身につけつつあると。
松尾 この3人なら、やってみて無理だったら別の方法を試してみよう、ということができるので。迷ってウジウジしていたら、やりたいことをやるタイミングなんてどんどん過ぎていってしまうし。今年はもうこの勢いに任せて、やりたいことをやっていくという気持ちが強いですね。
泉 制作面でもそうですし、バンドとしての動きの面でも、今年はmurffin discsに所属することになって、かほすけも入ってくれて、転がしていけるものの大きさがどんどん大きくなっている感覚があるんですよね。僕はこれからのChimothy→がとにかく楽しみで。2025年の後半もどうしていこうかなと考えるのが、今すごく楽しいです。
木村 目指しているところが同じ3人が揃って、超信頼できるレーベルにいて、怖がることは何もないので。ネガティブなことは考えずに、この先もポジティブになんでもやっていきたいという気持ちですね。