all pics by taku fujii満員御礼の赤坂BLITZのステージに3人がその勇姿を現すと、お客さんからは拍手喝采――と、なぜかどよめき混じりの失笑が起こる。まだ一つも面白いことしてないぞ。しかし会場には何とも言えない親密な空気感が充満している。2ndフルアルバム『INSUROCK』を携えての全国ツアー『SAKANAMON MADOGI WORLD TOUR』ファイナル、赤坂BLITZは完全に彼らのホームだ。「よくぞ帰ってきた」という熱烈なる歓迎と、「何を見せてくれるのか」という特別な期待感で、フロアはもう今にもはち切れんばかり。ツアーファイナルの1曲目を飾るのは“102”。藤森元生(Vo・G)のアコギの弾き語りで始まる『INSUROCK』のラストナンバーが、予測不能なパフォーマンスでフロアを熱狂と興奮と爆笑に包んだこの夜の口火を静かに切った。
さらに“マドギワールド”“花色の美少女”“便乗鴎の世界”と立て続けに演奏すると、観客からはハンドクラップが巻き起こる。どこか歪で、それでいて強烈な中毒性を持ったSAKANAMONの個性豊かな楽曲が、フロアを歓喜に染めていく。「ツアーファイナルにようこそ! 最後まで楽しんで帰ってください!」という森野光晴(B)のMCを合図にミラーボールが回り出し、“SAKANAMON THE WORLD”が鳴り響くと、赤坂BLITZは早くもクライマックスの盛り上がりだ。「こんばんは、赤坂BLITZ! SAKANAMON MADOGI WORLD TOUR ファイナルにようこそお招きいただきました!」と藤森のとっ散らかり気味のMCに続き、森野が「個人的な話をすると、10年以上前にとあるバンドのライヴを赤坂BLITZに見に来たことがあって、そこに出ていたベースの人がかっこよくて、ベースを始めたんですよ。僕にとって神聖な思い出のある場所なんですけど、その思い出を塗り替えるぐらい最高に盛り上がって帰ってください」と語る。さらに「行こうぜ、BLITZッ!!」という木村浩大(Dr)のシャウトから“空想イマイマシー”へ突入。恒例になっているブレイクのアドリブでは、この夜『ミュージックステーション』に出演中のKANA-BOONの“ないものねだり”。これがまた、「俺らの曲より盛り上がってんじゃねえかよ!」と森野が苦笑いするほど拍手喝采&大合唱だった。
“脳内マネジメント事情”“僕の登下校”“訪問者”と一癖も二癖もあるポップチューンでフロアのカオティックな熱狂を加速させると、圧巻は「問題作の曲をやります」(森野)と披露した“エロス”。ボサノヴァから軽やかにスタートしたものの、どんどん混沌とリビドーを増幅させつつねっとりと激走するむき出しの変態性が、赤坂BLITZをすっぽりと飲み込んでしまう。“ARTSTAR”に続いては、『INSUROCK』随一の野心的サウンドを持った“エレクトリカルマーチ”。キメを多用したポストロック的アプローチの攻撃的なアンサンブルが、ステージに立つ3人をいつになくクールに見せる。爪弾き者であろうが、それがどうしたと言わんばかりの彼らの威風堂々たる佇まい。いつの間に、こんなにも頼もしいバンドになってしまったのだろうと思うと戦慄すら覚える。
“ミイとユウ”では、平賀さち枝を迎えてデュエットを初披露。藤森の朴訥とした歌声と、平賀の透き通った軽やかな歌声が、赤坂BLITZに爽やかな興奮を広げていく。彼女をステージから見送ると、「人の人生って、時間にすると70万時間ぐらいなんだそうです。知ってました?」とおもむろに語りはじめる藤森。70万時間というという限られた時間の中で、果たしてどれだけ自分たちの音楽が聴いてくれる人の人生に意味をもたらすのか――。音楽を作りながら、ふと彼はそんなとりとめのない気持ちになったのだという。けれども、「僕は音楽が好きで、音楽を作って、それをみんなに聴いてもらって、お互いに感動し合いたいという思いで音楽をやっている。ぜひ皆さんが生きているこの時間だけで良いので、これからも僕らの曲を聴いてほしいなという意思表明のつもりで作った曲を聴いてください」と力強く語り、歌ったのは“邯鄲の夢”だ。いつも飄々とした佇まいで、我が道を行く藤森だったが、その心の奥底には、こんなにも音楽に対して真っ直ぐで誠実な思いが隠されていたのか。『INSUROCK』随一の、いやSAKANAMON随一のバラード曲を、珍しく感情をむき出しにして歌い上げる彼の姿に、天真爛漫に我が道を突き進みつつも、どうしようもなく愛されてしまうSAKANAMONというバンドの核心に触れた気がした。
しかし“邯鄲の夢”の感動的な余韻を見事に打ち砕き、空気感を再びアゲ一色に塗り替えたのは、「お祭り男」木村浩大だった。アゲにまつわる話を木村が語るという「アゲトーーク」のコーナーになぜか突入し、会場に爆笑と失笑の嵐を巻き起こす。さらに、木村と観客との「アゲ・コール&レスポンス」で大いにアゲると、“マジックアワー”を皮切りに魅惑の「アゲゾーン」へと到達する。フロアが大合唱に包まれた“飴色の女の子”に続いては、激しいロックンロール・チューン“爆弾魔のアクション ~願い~”へ。これがまた、ライヴで聴くとよりサイケで凶悪な、火薬量マシマシな爆発力。飛び道具的な楽曲かと思いきや、その破壊力たるや圧巻だ。続けて披露した新曲もハードなロックチューン! SAKANAMONの新たな境地を感じさせるナンバーに、赤坂BLITZは沸きに沸いた。
「ここの隣にTBSがありますので、そこに受信できるぐらい皆さんの思いを発信しようと思います。叫ぶ準備はできてるかい?」(藤森)と語り続けた“TOWER”の幸福な一体感は本当に格別だった。藤森は中盤からギターを投げ飛ばして、観客と一緒に手を左右に大きく振りながら熱唱。疎外感と劣等感を抱えながら、けして多数派にくみすることのない爪弾き者たちが「束に成って」と歌い踊るからこそ、この曲は特別な高揚感を帯びる。SAKANAMONだから歌えるアンセムだろう。フロアに大合唱を巻き起こした“ミュージックプランクトン”で熱狂を加速させると、最後は「赤坂に集ったヒーローたちに捧げます!」(藤森)と語って“シグナルマン”。ラストはもう、ロックバンド=SAKANAMONの凄みを感じさせる壮観なパフォーマンスだった。
アンコールでは、森野のMCがとても印象的だった。「SAKANAMONは藤森くんが作ってる曲を演奏するバンドです。僕は藤森くんが作る曲はすごく良いと思ってるんですけど、皆さんも同じ気持ちでいてくれるとすごく嬉しいです。でも、身内がそう思ってるだけじゃなくて、世間に認めさせないといけないと思ってて、それが僕とキムさん(木村)の仕事かなと思ってます。ちゃんと、数年後にはこのBLITZのライヴが自慢できるぐらいの存在になりたいと思ってるんで、『天才(仮)』、『普通の人』、『お祭りアゲ男』、この3人のSAKANAMONをこれからもよろしくお願いします!」。ロックバンドとして一皮もふた皮も剥けたパフォーマンスを披露したライヴだったからこそ、彼の言葉にはこの上ない説得力があった。カラフルな四つ打ちの新曲と“ハロ”を続け、パンクバンドのように演奏した“妄想DRIVER”でライヴはフィナーレ。藤森は最後マスコットキャラクター「サカなもん」を振り回し投げ倒し、大暴れだった。この3ピースでしか描けない熱狂と感動に終始包まれた赤坂BLITZのライヴ。SAKANAMONをもっともっと追いかけたいと、赤坂BLITZに居合わせたすべての人が心から強く思ったことだろう。SAKANAMONがもたらしてくれた幸福で痛快な「70万分の2時間」だった。(大山貴弘)
■セットリスト
01.102
02.マドギワールド
03.花色の美少女
04.便乗鴎の世界
05.SAKANAMON THE WORLD
06.空想イマイマシー
07.脳内マネジメント事情
08.僕の登下校
09.訪問者
10.エロス
11.ARTSTAR
12.エレクトリカルマーチ
13.ミイとユウ(w/平賀さち枝)
14.邯鄲の夢
15.マジックアワー
16.飴色の女の子
17.爆弾魔のアクション ~願い~
18.新曲
19.TOWER
20.ミュージックプランクトン
21.シグナルマン
(encore)
22.新曲
23.ハロ
24.妄想DRIVER