908 FESTIVAL 2014(1日目)

908 FESTIVAL 2014(1日目)
ソロデビュー10周年の集大成にして、3年連続での開催となる「908 FESTIVAL 2014」の東京公演(大阪では8月28日に開催)初日。「KREVA~完全1人武道館~」という副題通り、DJもバンドも従えず、たった1人での武道館公演。2007年に「K-ing」ツアーで披露され、半ば伝説と化している試みであるわけだが、事前の予想をあっさりと上回る驚きと喜びに溢れる瞬間が、ライヴのあらゆる箇所に用意されていた。

会場に入ると、スクリーンには「DJ908」の文字。開演前からKREVA本人がDJをまわし観客を迎え入れているのだ。流石1人武道館、と最初の感心をしているうちに、オープニングのVTRが始まる。デビューからの10年が、その年に出したシングルのPVや節目のライヴ映像と共に1年ずつ振り返られていく。良い曲、良いライヴばかりなのはもちろんだが、同時に観ていて少し不安になる。これから演るであろう曲達の美味しい部分ばかり先に観せてしまって大丈夫なのか、と。しかし、結論を先出ししてしまえば、今日のライヴにおいて音源と同じ形で鳴らされた曲は1つたりともなかったのだ。

908 FESTIVAL 2014(1日目)
映像が終わり、KREVAが登場。様々な機材が配置されてもなおやたら広く感じるステージ上で1人歌い始める1曲目は、“基準”だ。ラップしながらその場でトラックに音を上塗りしていく手捌きと、稲妻のようなライティングとが絶妙に合わさり、滅法格好良い。そのまま、2曲目“ストロングスタイル”へ。高低音のバランスや音の分離が極めて良い、非常に高級な音像。1人でやっているのでないとしても充分驚嘆に値するだけの音が早くも連発される。続いて、「いきなりクライマックスみたいなことをやる」と煽った上で、25分間ぶっ通しのメドレーを始める。“成功”~“俺は Do It Like This”~“OH YEAH”~“I REP”~“調理場”~“世界の中心”~“かも”~“スタート”~“成功”と、曲によっては部分的に切っては繋ぎ、1人でラップしてスクラッチしてミックスしながら、25分間演奏し続けるのである。しかも、コールアンドレスポンスが多発した前半の勢いから、後半に進むにつれ少しずつメロウになっていく物語性を孕んだ流れまで丹念に作り上げられている。“スタート”の終わり際「覚えてる?25分前、何の曲からスタートしたか」といってシームレスに“成功”に繋がれたときの興奮は、客席からの割れんばかりの歓声が何より物語っていた。

908 FESTIVAL 2014(1日目)
驚きはまだまだ終わらない。一旦暗転したステージにホワイトボードが運び込まれると、チャイムが響き渡り、スクリーンに「908ライミング講座」と映し出される。そしてステージでは黒ぶち眼鏡をかけ教師となったKREVAが「語尾の1文字2文字踏まれるくらいで韻を踏んでるとか言われると困る」と言って、ライミングの授業を始め出す。板書しながら、1つの単語に対し全ての文字の母音で韻を踏む技術や、あえて踏まない場所を作ることの意味などを、自身の“You are the No.1 (Hey DJ)”を題材に使いながらコミカルに教授していくKREVA。なんと豪華な授業だろうか。その上、最後には「教材として」新曲を作ってきたと言って、47の都道県名全てで韻を踏んでいく“47都道府県ラップ”が披露された。凄いMCって本当に凄いな、と阿呆のように感動していると、今度は“トランキライザー”を題材にビートメイク方法を紹介しトラックメイカーとしての顔を見せたかと思えば、続けざまに自曲を使った生マッシュアップまで披露される。さわりだけ紹介された“BESHI”と“くればいいのに”の組み合わせも意外なハマり方で良かったが、特にフルで演った“全速力”と“Space Dancer”のマッシュアップはアシッドなムードから曲後半で一気にビートがバウンドする瞬間が異様に上がるピカピカのキラーチューンに仕上がっており、本当に素晴らしかった。

演奏場所をステージ中央から上手のエリアに移し、今度は(娘が使わなくなったという)トイ・ピアノやタンバリン、カホンを駆使してセミアコースティックでのプレイを始める。ループマシンにビートを録り重ねていく際にこぼれた「世の中のビートはこういう凄く細かいこだわりをもって作られてるっていうことを知ってもらえれば」という言葉を裏付けるストイックな作業を経て、完成したのは“瞬間speechless”。名曲が、我々のよく知るそれとは違った表情をもって1から作られ、しかも産みの「途中」まで曝け出されることで、また新しい感動が宿って行く様が凄まじかった。感動の時間は、もう1曲続く。以前のツアーでサンプラーの「押し語り」を披露したこともあったが、今回はシンセサイザーで音の作り方をレクチャーした後にシンセ「押し弾き語り」での、“EGAO”だ。「ピアノやギターなどの楽器が弾けないことがコンプレックスだった」というKREVAだが、これだけ自在に音を操りながら、これほどエモーショナルな歌を歌うことができるピアニストやギタリストもそうはいない。ライミング、ビートメイク、DJ、録音、生演奏。ヒップホップに係る全方面でKREVAという男がいかなる高みに立っているのかが、観客の1人も置いていかず、それどころか残さず喜びの渦に巻き込みながら提示されていく様は、大衆音楽家としてもはやある種の美しささえ湛える次元に入っているようだった。

908 FESTIVAL 2014(1日目)
「いつものライヴに比べて自信が足りない。みんなの笑顔が見たいけど、今日の俺は画面ばっかり見てる。だからそっちに行こうかな、と」と述べ、ついに機材の囲いから飛び出すKREVA。《そろそろ外出したくて さっきから俺はそわそわしてる》という歌い替えたコーラスで始まるのはもちろん、“イッサイガッサイ”。要所でライダーベルトのように腰に巻いた小型のMPCを打ちながらではあれど、やはりステージ前方で身振り手振りを交えラップに専念するとまた格別の存在感だ。“Have a nice day!”~“C’mon, Let’s go”~“Na Na Na”と、ここぞとばかり畳みかけられるアッパーなアンセム群にオーディエンスもこれまでよりもさらにもう一段上の歓喜を爆発させる。そして、最後の1曲に選ばれたのは、10年前の9月8日にリリースされた“音色”。「何にも代えられない最高の楽器はみんなの声。それに負けないように色んな音色を使ってる」という言葉通り、様々な音を1つも無駄にせず効果的に紡がれる“音色”は、この10年間で切り拓いてきた前人未到の荒れ地に実った果実のような豊かさをもって響き渡った。演奏を終え、今日紹介した機材に礼を言うように1つずつ手を触れ位置を整えてからステージを去っていくKREVAの格好良さといったら。格好良いバンドを見れば、バンドを始めたくなるだろう。格好良いMCを見れば、ラップを始めたくなるだろう。しかし、今日のステージを見てなりたいと思うのは、「KREVA」でしか有り得ない。同じ土俵に立っている人間が他にいないのだから、当然である。よくアーティストの独自の音楽性を指してもはや1つのジャンルだと表現されることがあるが、KREVAの場合「ギタリスト」や「ヴォーカリスト」と同じ音楽家の分類として「KREVA」なのである。わずか10年で、KREVAはここまで来たのだ。終演後スクリーンに映し出された「SEE YOU NEXT STAGE!」の文字が告げる「この先」も楽しみだが、今夜は未来を向くよりもただただこの10年の偉業を讃えたい。日本の音楽シーンに、KREVAがいてよかった。(長瀬昇)


■セットリスト

01.基準
02.ストロングスタイル
03.成功
04 俺は Do It Like This
05.OH YEAH
06.I REP
07.調理場
08.世界の中心
09.かも
10.スタート
11.成功 (アウトロ)
12.47都道府県ラップ
13.トランキライザー
14.全速力×Space Dancer
15.瞬間speechless
16.EGAO
17.イッサイガッサイ
18.Have a nice day!
19.C’mon, Let’s go
20.Na Na Na
21.音色
公式SNSアカウントをフォローする

最新ブログ

フォローする