「こんばんは、andymoriです! アリーナ! 2階席!」とここ日本武道館につきもののコールで軽やかに呼びかける小山田壮平(Vo・G)に応えて、客席から割れんばかりの大歓声が湧き起こる。さらに、「アリーナ=1階席」と思っていたらしく2階席のオーディエンスに「3階席!」と呼びかけていた小山田、「ここ1階!」の観客の声に気づいて「あ、そこが1階なんだ? だから3階席がないんだな(笑)。1階席!」と仕切り直し、「アリーナは地下だな。B1!」と会場を沸かせてみせる……「andymori ラストライブ」、10月15日・日本武道館。「ラストライブ」という場につきもののセレモニーめいた悲壮感をいっさいまとわりつかせず、かといって「あえて自然を装おうとしている」といった作為とも無縁のまま、小山田壮平/藤原寛(B)/岡山健二(Dr)の3人は、本編35曲+アンコール6曲という長大セットリストを2時間半で、一陣の風のように駆け抜けてみせた。
「このバンドに情熱を注いできて、やれるだけのことをやりきった」という宣言とともにandymoriが解散を表明したのが昨年5月。2013年の7月からラスト・ツアーを開催、9月24日には最後の大舞台として日本武道館ワンマン公演が予定されていたが、ツアー開始直前の小山田の負傷→およそ1年に及ぶ治療とリハビリのため、武道館含めライブ・スケジュールはすべてキャンセルとなった。そして、「終わり」へ向けてandymoriの最後のライブ・スケジュールが動き始めたのが今年7月。大阪&東京でのワンマンライブ「andymori ワンマン ひこうき雲と夏の音」とイベント/対バン出演を経て、「SWEET LOVE SHOWER 2014」の初日:8月29日のステージで大団円を迎える……はずだった。が、その舞台で「寛、健二、もう一回ライブやろう!」という小山田の言葉が飛び出し、まさかの「武道館でのラスト・スタンド」が発表されたのはその直後、9月2日のことだった。バンドの「終わり」へ向けて再びバンドが「始まる」、という二律背反な感情が渦巻いていた「ひこうき雲と夏の音」の時とは異なり、正真正銘最後の、本当に最後のアクトとして、彼らはこの武道館のステージに立ったのだ。
開演予定時間=18:30きっかりに場内が暗転し、一面の歓声を受けて舞台に3人が登場、1曲目“ベンガルトラとウィスキー”で全照明がONになり、ステージと客席を真っ白に照らし出していく。いきなりクライマックスから始まるような展開への驚きと感激が、“ベンガルトラとウィスキー”の躍動感と一体になって、武道館をあふれんばかりの多幸感で包み込んでいく。“愛してやまない音楽を”の3人アカペラに客席一丸のクラップが広がり、岡山のドラムが牽引する“everything is my guitar”のドライブ感が会場のテンションをぐいぐいと高めていく。3人の機材と最低限の照明だけが置かれた巨大な舞台で、小山田/藤原/岡山の3人だけが鳴らす、シンプルにしてマジカルなバンド・サウンドが、1曲また1曲と最後の輝きを放っていく。「ラストライブ」というよりは、この最高の「晴れ舞台」を全身で謳歌しているような佇まいの3人。それでも、「みんなに歌いたいと思います、この曲を……」という小山田の言葉とともに歌い上げたスロウ・バラード“スパイラル”の、《僕たちはそれでも明日を夢見て眠るしかないんです》というフレーズは、「andymoriの終わった後」を生きる僕らへのメッセージとして深く胸に沁みた。
これまで彼らがアルバム5作品=『andymori』『ファンファーレと熱狂』『革命』『光』『宇宙の果てはこの目の前に』で提示してきた音楽世界の核心だけを高純度に凝縮してみせたようなこの日のアクト。とはいえ、演奏のクオリティだけに関して言えば、むしろ復活ワンマン「ひこうき雲と夏の音」のほうがタイトだったし、この日の“MONEY MONEY MONEY”“FOLLOW ME”をはじめとする爆走ナンバーに滲んでいたスリルは「ビートのめくるめく加速感」よりも「アクセル踏みすぎてギアが外れる寸前の危うさ」に近いものがあった。が、それは取りも直さず、3人がこの舞台に立っていつも以上に感情と衝動を解き放っているからに他ならない――ということが、身体を振り絞って熱唱する小山田の姿からも、藤原&岡山の熱くうねるリズムからも伝わってきた。そして、そんな彼らのモードが、andymoriのアンサンブルが内包するフォークとパンクとロックンロールのエッセンスをより激しくシャッフルし、晴れやかで、しなやかで、醒めているのに荒ぶっている「andymoriの音楽」をよりリアルに響かせていた。ハード・バラード“遠くへ行きたい”の爆発力は武道館丸ごと震わせるには十分すぎたし、“空は藍色”の端正な音像がやがてラウドかつ雄大に昇り詰めていく展開は、武道館という場所だからこその荘厳なまでのスケール感と感動を与えてくれるものだった。
いざMCとなると、ラストライブならではの特別な言葉が飛び出すのでは?と誰もが息を呑んでその発言に耳を傾けているのだが、当の小山田は「今日(10月15日)は何の日かっていうと……『世界手洗いの日』らしいです。あと、広島カープが初優勝したのも今日。1975年に」と飄々としている。それでも、続けて「カープは、(栗原選手の)出囃子に曲を使ってもらってたから、“革命”を……いろいろあるね」と話す言葉に、しんみりした空気が広がりそうになるところを、「みんな、楽しんでね!」と快活に呼びかけて、“サンセットクルージング”“都会を走る猫”“Sunny Side Diary”とロックンロールの熱量を振り撒いていく。感傷に浸る間もなく次々と曲が演奏され、開演から1時間が過ぎた時には、ライブはすでに17曲目“ネオンライト”に差し掛かっていた。しかし、そんなライブの空気が一気に濃密な寂寞感を帯びたのは本編後半、“宇宙の果てはこの目の前に”“夢見るバンドワゴン”を立て続けに披露した時だった。バンドで描く音楽の「理想」を凛としたサウンドスケープに結晶させた“宇宙の果てはこの目の前に”。バンドマンとしての「現実」をこの上なく美しく朗らかな「僕らのうた」に昇華した“夢見るバンドワゴン”。これ以上削ぎ落としようもないくらいシンプルで、しかし他の誰にも実現できない、andymoriという名の奇跡そのもののような場面に、思わず胸が熱くなった。
「たくさんの人に感謝してます。みんなの力をもらってやってきたし。今日もね、スペシャが……スペースシャワーTVの『SWEET LOVE SHOWER』で解散する予定だったんですけど、わがままを言ってしまい……」と後半のMCで語る小山田。この日のライブは「スペシャアプリ」でも生中継されており、「感謝してます」(藤原)、「同じ瞬間なので、どこであろうと関係ないと思うので、楽しんでください」(岡山)と全国の視聴者にメンバーそれぞれメッセージを伝えていく。そして、「ありがとう。みんな、ありがとう。感謝してるよ」という小山田の言葉に続けて、アコギを構えての“16”からカントリー・パンク的な新曲“おいでよ”へ流れ込み、ライブは終幕へ向けていよいよ熱を増していく。高らかなクラップとともに鳴り渡った“Sunrise&Sunset”。衝動と諦念が3人コーラスとともに美しく咲き誇った“シンガー”。藤原の冷えたオルガン・サウンドと小山田のアコギが神聖な空間を生み出した“カウボーイの歌”。ミラーボール&7色の光線きらめくダンス・ロック・ナンバー“クラブナイト”やブレーキ壊れた爆走ナンバー“すごい速さ”で湧き起こった熱いシンガロング……体感時間で言えばあっという間の34曲を終え、「本当にありがとう」とささやくように、しかし確かに感謝の想いを伝える小山田。本編のラストを飾ったのは、『SWEET LOVE SHOWER』で初披露した新曲“それでも夜は星を連れて”。無防備なくらいに無垢で美しい音楽と情熱の形が、至上のメロディとアンサンブルとなって、武道館の広大な空間に広がっていった。
アンコールを求めて湧き上がる客席一丸の手拍子に応えて、再び舞台に現れた3人。「最後だよ!」と客席から飛ぶ感極まったような声に、「最後だねえ……行こうね。行くぜ。YES!」と答える小山田。アンコールは“1984”からスタート。麗しの名曲のコーラスワークを赤々と燃え上がらせるような小山田の絶唱が、終わりの近づいたライブ空間をさらに高揚させていく。そして“andyとrock”“ユートピア”“革命”“Peace”……灰色の日常も焦燥感も、研ぎ澄まされたメロディと言葉の力で理想郷に塗り替えていく、andymoriの真価そのもののような時間だった。そして、彼ら3人が最後に鳴らした楽曲は“Life Is Party”だった。《楽園なんてあるわけない》《あの日の空は言うさ/Life Is Party 明日もずっと続くよって》……目映いライティングとともに、武道館を真っ白に染め上げるような歌声とサウンドが響いて……終了。「ありがとう」と2度、3度と呼びかけ、軽く手を振りながら、3人はいつもと同じように、颯爽と舞台を去っていった。
暗転した場内で“それでも夜は星を連れて”が終演SEとして流れている間も、客電がついて「以上をもちまして本日の公演は……」のアナウンスが流れても、さらなるアンコールを求める手拍子がいつまでも続いていた。あっけないくらいに鮮やかな終幕に、しばし取り残されたような虚脱感を味わったものの、帰り道で頭に浮かんでくるのは「バンドが終わったという事実」よりも、彼らが作り出してきた楽曲そのものだった。「その先」へ向かうために彼らは活動に終止符を打ったけれど、僕らはandymoriの音楽を止める必要はない――そんな想いを改めて胸に刻みつけてくれた、どこまでもandymoriらしいラストライブだった。(高橋智樹)
■セットリスト
01.ベンガルトラとウィスキー
02.愛してやまない音楽を
03.everything is my guitar
04.グロリアス軽トラ
05.青い空
06.ハッピーエンド
07.スパイラル
08.ボディーランゲージ
09.MONEY MONEY MONEY
10.遠くへ行きたい
11.ジーニー
12.空は藍色
13.サンセットクルージング
14.都会を走る猫
15.Sunny Side Diary
16.ダンス
17.ネオンライト
18.インナージャーニー
19.クレイジークレーマー
20.サンシャイン
21.宇宙の果てはこの目の前に
22.夢見るバンドワゴン
23.16
24.おいでよ
25.Sunrise&Sunset
26.シンガー
27.カウボーイの歌
28.路上のフォークシンガー
29.ベースマン
30.FOLLOW ME
31.クラブナイト
32.兄弟
33.投げKISSをあげるよ
34.すごい速さ
35.それでも夜は星を連れて
(encore)
36.1984
37.andyとrock
38.ユートピア
39.革命
40.Peace
41.Life Is Party