怒髪天@中野サンプラザ

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「よく来た! 今日はドハツの日! そしてスーパーライヴ!! 何がスーパーって!?」と意気揚々と叫びながらメンバー紹介をする増子直純(Vo)。その周りにいるのは上原子友康(G)/清水泰次(B)/坂詰克彦(Dr)の3人に、サポートメンバーのカトウタロウ(G)/奥野真哉(Key)/YOKAN&お茶の間ホーンズの4人を加えた10人編成のスーパーバンド! たった4人で挑んだ今年1月の日本武道館ワンマンとはガラリと変わった光景である。今年で結成30周年を迎えた怒髪天による一夜限りのスペシャル・ワンマン「ドハツの日(10・20)特別公演 怒髪天スーパーライブ~秋の大感謝祭 "30(サンジュー)ベリーマッチ"~」。初の日本武道館ワンマンを皮切りに、30周年記念盤『男呼盛“紅”』のリリース、全国47都道府県を網羅した半年間の「お礼参り」ツアーとアニヴァーサリー企画目白押しだった今年の怒髪天。その終着点となるこの日のステージで、彼らはかつてない豪華なバンドメンバーとともに祝祭感と挑戦心に満ちた堂々たるアクトを見せつけてくれた。

怒髪天@中野サンプラザ
開演時刻の19時15分ジャスト、暗転と同時にスタートしたのは“威風怒道~愛と栄光のテーマ~”。その勇壮な調べに乗せて緞帳がせり上がり、怒髪天のメンバーに、カトウタロウと奥野真哉を加えた6人の姿が露わになる。そのまま“独立!俺キングダム”に雪崩れ込むと、客席のあちこちで振り上げられる拳、拳。早くもレッドゾーンに突入せんばかりの狂騒感に、上原子のメタリックなギターソロがさらなるガソリンを注いでいく。続く“欠けたパーツの唄”では、サビに向けてみるみる熱量を増していく坂詰&清水の爆裂ビートで場内を圧倒。カトウ&奥野のサポートメンバーを加えて厚みとカラフルな輝きを増したバンドサウンドの勢いは留まることを知らず、“愛の嵐~風速2004メートル~”では、あいにくの小雨模様となった屋外の湿っぽい空気まで吹き飛ばしてしまうほどの爽快なロックンロールが中野サンプラザに鳴り響いた。

怒髪天@中野サンプラザ
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ここで冒頭に挙げたMCを放つ増子兄ぃ。スーパーバンドを見せつけるかのごとく、“男、走る!”“あたし、SUPERツラい…”という昨年リリースのアルバム『ドリーム・バイキングス』の収録曲と、『男呼盛“紅”』からの“地獄で会おうゼ!”をホーンセクション込みの編成で披露していく。「音源を忠実に再現できる機会が欲しいと思って今回のホール公演を考えました。武道館でできなかったことを全部やってやろう!って気持ちです」という増子兄ぃの言葉通り、オルガンやホーンの音色に彩られたバンドサウンドは、新鮮そのもの。心地よい横揺れやハンドウェーブが沸き起こる客席には、メンバー4人のみの気迫あふれる轟音を浴びたときとは別種の、伸びやかな高揚感が生まれている。鍵盤やホーンを大胆に取り入れることで、怒髪天ならではの哀愁やユーモアがダイナミックに花開いた『ドリーム・バイキングス』。それを経てグッと包容力を増した怒髪天サウンドの最新型が、ヴィヴィッドに表現されているのも嬉しい。武道館で披露したキャリア凝縮の定番曲揃いのセットリストとは一線を画すものの、だからこそ新たな武器を携え未開の荒野を突き進む彼らの未来を予感させるような、力強い展開である。

もちろん、往年の名曲もキッチリ披露。“蒼き旅烏”“あえて荒野をゆく君へ”という1999年の活動再開後のインディー時代の楽曲では、闘争心そのもののソリッドなバンドサウンドと、JAPANESE R&E(リズム&演歌)の本領発揮といえるメロディアスな歌が炸裂する。シンセ音が冴えわたる“プレイヤーⅠ”といった最近の楽曲でも、あくまで歌われるのは《ゲームオーバーじゃなかった オトナになるコトは/終わりなんかじゃなかったよ 夢と希望コンティニュー》というド直球の人生応援ソング。年をとり、労働に明け暮れる毎日であっても夢と希望を失わないこと。それをバンド結成から30年もの長きにわたって伝え続ける怒髪天の信念が、新旧の楽曲連打によってリアルに浮き彫りになった名シーンであった。

怒髪天@中野サンプラザ
その後も怒髪天ならではの熱いメッセージを湛えた音楽世界をバラエティ豊かに開陳。暗転したステージにギュイーンというギター音が鳴り響き、妖気漂うグルーヴがトグロを巻いた“DO RORO DERODERO ON DO RORO”。「エンヤー、エンヤッサー!」のコールで観客すべての魂を燃え上がらせた“GREAT NUMBER”。さらには増子兄ぃのエモーショナルな絶唱が場内に沁みわたった“そのともしびをてがかりに”“雪割り桜”などのスローバラードも交えながら、どんなクソッたれな日常からも僅かな光を見つけて立ち上がろうとする意志が、時にエネルギッシュに、時に優しさを込めて歌われていく。流麗なピアノの旋律で幕を開けた“ロックバンド・ア・ゴーゴー”からは、オーディエンスの腰をひとり残らずスウィングさせるダンスタイムへ突入。再びホーン隊を加えた“喰うために働いて 生きるために唄え!”“団地でDAN!RAN!”では会場一丸のハイジャンプとハンドウェーブが沸き起こったが、こうしてバンドと観客がひとつになって、「人生をともに生き抜く仲間」としての結束力を見せつけるのも怒髪天のライヴの醍醐味である。そして本編ラストの“セバ・ナ・セバーナ”で場内のヴォルテージは頂点へ。エネルギーのすべてを使い果たすようなアグレッシヴなサウンドとともに《またな!すぐ会おう またな!忘れんなよ》という増子兄ぃの絶唱が会場の隅々まで行き届き、10人のビッグバンドは颯爽とステージを去った。

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アンコールでは、結成30周年記念盤第二弾として11月26日にリリースされる『歌乃誉“白”』のリード曲“ひともしごろ”を初披露。ストリングスのイントロが鳴り響くやいなや、ステージ後方の幕が開いて8人のストリングス隊が現れる。壮大かつシンフォニックなサウンドとともに渾身の歌心をスローテンポで届けると、一転して8ビートが疾走する“歩きつづけるかぎり”でパンキッシュに爆発。そして「バンドやってきて良かった。明日からまたあんまり面白くない毎日が始まる。それでもやっていくしかないんだ!」という増子兄ぃのラストMCから必殺曲“オトナノススメ”を豪快にブチかまして終了。“ありがとな”のSEが流れる中、手を繋いでお辞儀をする出演メンバー全員に盛大な拍手が送られた。その音と歌の隅々から情熱が溢れ出すような、感動の2時間。これからも熱い闘魂を燃やしながら我々をポジティヴな未来へ導いていこうとする意志を物語るように、緞帳が下がり切るまで床にしゃがみ込んで客席に手を振り続けるメンバーの姿が頼もしく映った。(齋藤美穂)

■セットリスト

01.威風怒道~愛と栄光のテーマ~
02.独立!俺キングダム
03.欠けたパーツの唄
04.愛の嵐~風速2004メートル~
05.男、走る!
06.あたし、SUPERツラい…
07.地獄で会おうゼ!
08.蒼き旅烏
09.あえて荒野をゆく君へ
10.プレイヤーⅠ
11.DO RORO DERODERO ON DO RORO
12.己 DANCE
13.GREAT NUMBER
14.枯レ葉ノ音
15.そのともしびをてがかりに
16.雪割り桜
17.ロックバンド・ア・ゴーゴー
18.喰うために働いて 生きるために唄え!
19.団地でDAN!RAN!
20.セバ・ナ・セバーナ

(encore)
21.ひともしごろ
22.歩きつづけるかぎり
23.オトナノススメ
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